中国が出資する巨大ダム「カンボジア住民の生活を破壊」=人権団体報告書

2021/08/18
更新: 2021/08/18

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは5日、「一帯一路」構想の一環として中国が出資するカンボジアの巨大ダムにより、数万人の村人の生活を破壊したとする報告書を発表した。

米国を拠点とする非営利団体は『水中:中国の一帯一路構想がカンボジアにもたらした人権侵害(Underwater: Human Rights Impacts of a China Belt and Road Project in Cambodia)』と題した137ページの報告書のなかで、中国が出資するセサン下流2水力発電所ダムの建設がもたらした、地元コミュニティの収入、生活、土地、食料や水へのアクセスなどの被害を分析している。

専門家はカンボジア政府によってメコン川流域で行われている7億8100万ドル(約860億円)の水力発電プロジェクトでは、地元住民との納得の行く協議がもたれることなく、住民は立ち退きを強いられ、充てがわれた補償は失われた資産を埋めるには到底見合わないものだったと述べた。

HRWは報告書で、政府が強行したダム建設は人権問題を引き起こしたと指摘。

立ち退きを強いられた村人はHRWに対して、「私たちが望んでいること、必要としていることを(政府は)聞かなかった」「私たちは全員(ダム建設に)反対している」と悲痛な声を上げた。

ダムの建設は2013年に始まった。2021年現在、中国の国営企業ハイドロランチャン国際エネルギー社が51%の株式を保有している。

カンボジア政府は、アジア最大級の広さを誇るセサン下流2水力発電所ダムの建設により、カンボジアの年間電力需要の約6分の1が賄われることを期待していたが、実際の生産量はその半分以下になると言われている。

アジアからアフリカ、欧州にまたがる「一帯一路」構想は、インフラプロジェクトを建設するという北京の「影響力拡大」アジェンダの一環である。途上国は中国の協力で自国経済を発展させようとする狙いがあるが、中国が各国に不透明な過剰融資を実施してきたため、「債務の罠」に陥る国も少なくない。

ビジネスと人権リソースセンターが11日に発表した報告書によると、2013年から2020年の間に、海外における中国企業に関連した人権侵害疑惑が少なくとも679件報告されている。

かき消された声

ダム建設により住宅や漁場が破壊されることを懸念した住民の声は、当局によってかき消された。

ダムが建設されたセサン川とメコン川が合流する周辺では以前、豊かな水と森に囲まれており、自給自足の生活が営まれていたが、住民は立ち退きを余儀なくされた。

ある村人は2009年のインタビューで、「せっかく立派な家があるのだから、離れたくない。ヤシの木もマンゴーの木も何でもある」と語っている。

生活に必須である魚の漁獲量は4分の1までに減少し、重要な水産資源が脅かされ、ダム周辺に住む数万の村人の収入に大きな損失が出ている。さらにはHRWのプレスリリースによると、反対する住民は脅されたり、投獄されたりしたという。

報告書は「先住民族の権利に関する国際連合宣言」に言及し、「政府と企業は、影響を受ける先住民の『自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意』を得ようとはしなかった」と批判した。

漁業や生態学の専門家は、セサン下流2水力発電所ダムの建設により、メコン川の漁獲高が減少していると警告した。

(翻訳編集・小蓮)