自民党政権が長期化するにつれ、首相官邸の影響力が党を上回る「政高党低」現象が、国会議員の間でも議論されるようになっている。このことはコロナ禍で特に顕在化し、地域の声が政府の政策に反映されないとの指摘もある。
このような問題について、自民党総裁選の候補者たちはどのように考えているのか。自民党若手議員からなる「党風一新の会」の質問に、候補者たちが回答した。
岸田文雄氏、「政高党高」こそあるべき姿
自民党で政調会長を務めた岸田文雄氏は、「政高党高」であるべきだが、現在は「政高党低」になっていると指摘。予算編成時に政府がなかなか具体的な数字を提示しなかったことに意見した経験を挙げ、政府に対して党の立場が弱い状況が「まかり通ってはいけない」とし、「政府と党は車の両輪の関係だ」と強調した。
党として政策立案能力と発信力を高めていく必要もあると論じた。「政調での議論は1年周期で物事を議論するが、党の政策能力をアピールするには、数年間に跨る中長期的なビジョンを党として持つことが大事」と述べ、ビッグデータの活用、EBPM(※1)といった新しい政策立案の手法を取り入れることを掲げた。
河野太郎氏「政高党低じゃないと困る」
河野太郎ワクチン担当相は、国会で説明責任を果たすのは政党ではなく政府であるとし、「政高党低じゃないと困ると思う」と述べた。「私が昔よく言っていたのは、与党は首班指名までということだ」
河野氏は国会における議決の在り方についても疑問を呈し、議員が自らの意思に基づいて投票するのは「議院内閣制では当たり前で、できないとおかしいと私は思っている」と主張した。若手議員の積極的な登用にも言及。「若手が政府や党の要職にどんどん起用されれば、そこで切磋琢磨して」自らの意見を持つことができるようになると述べた。また、党内の良いアイディアを吸い上げるメカニズムを作り、提案を形だけのもので終わらせてはいけないとの考えを示した。
高市早苗氏「党は官邸の下請け機関ではない」
高市早苗前総務相は、「党とは官邸の下請け機関ではないことをはっきりしたい」と強調した。第二次安倍内閣時代に政調会長を担当した高市氏は、党の政務調査会でまとめた政策がそのまま総選挙の公約になったことを矜持として持っていたと語った。そして官邸と党の関係については、「政策が実行されたときは党は文句を言わず、できていないものがあれば党として申し入れを行う」スタイルであるべきだとの考えを示した。
そのうえで、「党は下請けではない。内閣を作ったのは党であり、党を選択したのは国民である。主権者の代表たる自民党、特にその政調が気合を入れていく」気概でなければならないと強調した。政務調査会の負荷が大きいことを指摘し、職員の増員と専門性の向上に努める必要があると述べた。
野田聖子氏「官邸と党のパイプ役を」
野田聖子幹事長代行は、かつての自民党は意思決定の遅さを批判された過去があり、その反省として迅速な意思決定を行うようになったと述べた。そして安倍政権から官邸が主導権を握るようになったが、これはかつて国民から求められていたものであると語った。官邸主導の政治により、党が弱体化したことにも言及した。
そのうえで、菅政権からは党の議員連盟の提案を受け入れるようになり、子ども庁がその一例であると指摘。「官邸が強い、党が強いはナンセンス。パイプ役をしっかり作っていくことが大事だと思う」と自身の見解を示した。
(王文亮)
※1 政高党低
政府や官邸の権力が大きく、自民党の影響力が小さい状況を比喩した言葉。反対語は「党高政低」。
※2 EBPM
証拠に基づく政策立案(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)とも呼ばれる。政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること。内閣府によれば、政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータを活用したEBPMの推進は、政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資するという。
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