「地上の太陽」核融合…進む主要国の取り組み 日本は総裁選以降注目高まる

2021/10/15
更新: 2021/10/15

先の自民党総裁選でも話題に上がり注目された次世代技術、核融合。環境問題やエネルギー問題の解決に結びつけられるとして、米国ではベンチャー企業による投資も活発化している。1940年代に発案されたこの技術は「実用化には21世紀末」と言われてきたが、近年、主要国ではカーボンニュートラルの実現に向けて独自の取り組みが加速。各国は早期実現を政策課題にしており、開発競争が進んでいる。

そもそも核融合エネルギーとは何か。これは軽い原子であり自然界に遍く存在する水素やヘリウムの核融合反応を使い、核融合炉で発生させるエネルギーで、事重大事故を起こしたときの原子力発電所(核分裂炉)のような「核の暴走」が起こらないことや、高レベル放射性廃棄物などがあまり出ない点がメリットとされる。太陽などの恒星はすべて核融合反応で熱エネルギーを生んでいるため、核融合炉は「地上の太陽」とも例えられている。

主要国はすでに20年先の核融合発電の実用化に向けたロードマップを策定している。8月に開かれた文部科学省の核融合科学技術委員会は、各国の取り組みをまとめた資料を公開した。

それによると、EUは関連機関が策定した「核融合エネルギー実現に向けた欧州研究ロードマップ」 で、22世紀に世界で1テラワットの核融合発電所が必要と記した。これは、発電能力100万キロワットの発電所1000基分に相当する。さらに、フォン・デア・ライエン欧州委員長は「欧州グリーンディール」政策の下で核融合を推進しており、 2050年頃に発電を行う核融合発電炉の建設と発電を目指すとしている。

米国エネルギー省の核融合エネルギー科学諮問委員会は2021年2月、核融合エネルギーとプラズマ科学に関する10年間の国家戦略計画を発表。2040年代までに核融合発電炉を建設するための準備を整えるとした。さらに、同時期に全米科学アカデミーが発表した報告書は、2035~2040年に核融合発電を目指すとの案を示した。

米国では、カーボンニュートラルに対する世論の後押しもあり、核融合ベンチャー企業への民間投資が拡大している。マサチューセッツ工科大学が設立したコモンウェルス・フュージョン・システム社は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏などから累計220億円の投資を受けつけて、2025年に核融合実験炉を稼働させることを目指している。

英国は、ジョンソン首相によるグリーン産業政策やエネルギー白書で、2040年までに「商用利用可能な核融合発電炉」の建設を目指すと明示している。発電炉の立地地域を募集したところ15地域が応募し、その関心は高い。英国でも民間分野の投資も進む。英原子力公社は2021年6月、アマゾン創業者のジェフ・ベソス氏が出資するカナダのゼネラル・フュージョン社と英国内に実験炉を建設する協定を結んだ。

中国においても国産の核融合発電実現に向けた計画がある。2007年にスタートした、日欧米露中などが共同研究する国際熱核融合実験炉「イーター(ITER)」※と同規模の試験炉を中国国内に1基建設した後、これを2030年代までに発電炉に改造することを推進している。

日本ではどのような取り組みを進めているのか。文部科学省や経済産業省は核融合炉発電の実用化に向けて、前出のイーター計画の国際協調を維持する方針だ。今年6月に開かれたイーター理事会の結果によると、イーターは21年現在、運転開始まで建設が73%進んでいる。2035年に核融合実験をスタートさせる目処が立っているが、あくまで実験炉の運転であり、実用化は今世紀半ばと言われている。

各国が資金や部品を協力するイーターは、核融合のなかで最重要ともいわれる世界最大級の超伝導コイルほか、基幹となる部品が日本から納品されている。

日本はこのほか、イーターの研究とは別の方法で核融合エネルギーを生み出す研究を続ける、核融合科学研究所および大阪大学を支援している。また、京都大学が核融合研究のベンチャー企業を宇治市に設立した。調達資金は5億円ほどで、欧米と比べると金額の差が大きいため、国家が後押しするべきだとの声もある。

日本の高い技術力は国際研究への貢献実績があるにもかかわらず、これまで日本国内では核融合エネルギーの注目度は高くなかった。2019年6月の参議院常任委員会調査室の資料には、「スーパーカミオカンデや、はやぶさ2プロジェクトに比べると、人口に膾炙(広く認知)されているとは言い難い」との記載があり、日本政府の嘆きが見られる。

しかし、9月に行われた自民党総裁選では、論戦のテーマとして核融合エネルギーに関する政策が、のちに首相となる岸田文雄氏と政調会長に就く高市早苗氏から言及されたことで、この次世代技術の認知を一気に押し上げた。

高市氏は核融合発電を国家プロジェクトにすることを提言。デジタル社会が急伸していくにつれ情報通信関連の電力消費量が10年後に30倍になる、との国立研究開発法人の提言書をもとに、国内の安定的な電力供給を確立する必要があると唱えた。

岸田文雄首相は、首相になる前の党総裁選当時、エネルギー戦略として小型原子炉や核融合などへの投資を支援すると述べていた。また政策案には、イーターを国家戦略に策定することを掲げていた。

今月末の衆議院議員選挙(10月14日公示、同31日投開票)および来春にも行われるとみられる参議院議員選挙において、候補者が掲げる政策案にも、核融合エネルギーは関心の高いテーマとして掲げられる可能性は十分ある。

(佐渡道世)

用語解説

※イーター(ITER)
国際熱核融合実験炉計画。環境への負荷が少なく持続可能なエネルギー源の一つとされる核融合の科学的・技術的な実証を目的として、実験炉を建設・運用する国際共同プロジェクト。現在の加盟極(メンバー)は、日韓中印米露EUの7極。