【独自】子供の肝臓は10万元…中国当局が移植用臓器の調達にかかる「基準価格」を設定 臓器狩りの問題浮き彫りに

2021/11/09
更新: 2024/08/20

河南省など中国の複数の地方行政機関がこのほど、移植手術に使用する心臓や肝臓等の臓器取得にかかる基準価格を設定し、発表した。中国の臓器移植について、かねてから違法な臓器売買が行われているとの懸念があるなか、当局が犯罪行為を追認しているようだと専門家は指摘している。

年齢別・臓器別に価格設定、臓器調達機関も設立

河南省の衛生や財政、市場監督等の6つの行政部門は、移植用臓器の取得にかかる基準価格を発表した。価格は臓器そのものの「価格」ではなく、臓器の機能維持や摘出、保存輸送などで生じるコストに応じて設定されているという。現地紙「大河報」が10月28日、報じた。

河南省の基準価格一覧表。肝臓と腎臓には子供と大人の区別が設けられている。(スクリーンショット)

公開された価格リストによると、成人の肝臓が26万人民元(約461万円)で、子供が10万人民元(約177万円)となっている。成人の腎臓1つが16万人民元(約284万円)で、2つだと23万人民元(約408万円)となる。そのほか、心臓1つが10万人民元(約177万円)、角膜1つが1万人民元(約17万円)だ。

移植用臓器に価格を設定する動きは他の地域でも見られた。湖北省の衛生健康委員会は8月30日、移植用臓器の取得にかかる基準価格の設定についてパブリックコメントを募集した。広東省でも9月22日、同様の事柄にパブリックコメントを募集していたことが確認できる。

中国北部の大都市・天津では、医療機関が「臓器調達機関(OPO)」を成立させた。臓器調達機関とは一般的に、移植用臓器を調達し、評価を行う組織で、米国では、非営利のNPO法人の形式を取る。

いっぽう、天津では天津市第一中心病院に臓器調達機関が設置され、他の複数の病院と共同で運営する方針となった。そして、天津市第一中心病院が臓器調達機関に代わり、臓器の基準価格を9月6日に発表した。

天津市第一中心病院が9月6日に発表した資料(天津市第一中心病院ホームページ)

調査機関責任者「人々の関心をそらすのが目的」

中国の移植臓器の調達元は、無実の罪で囚われたウイグル人やチベット人、法輪功学習者であるとの調査報告が十数年前から指摘されている。2021年6月にも、国連人権理事会特別報告者が、当局が囚人などから必要に応じて臓器を摘出しているとの報告があるとして、懸念を表明した。

中国共産党による法輪功学習者への弾圧および臓器収奪問題を追跡する国際NGO「法輪功迫害追跡国際組織(WOIPFG、略称:追査国際)の責任者・汪志遠氏は、臓器の取得価格の公表について、国際的に非難を受ける臓器収奪疑惑を否定し、移植事業を「公認」して正当化を図っているのではないかと分析する。また、臓器売買といった医療ビジネスを助長しかねないと警鐘を鳴らした。

法輪功迫害追跡国際組織の汪志遠氏。2018年4月撮影(Lisa/大紀元)

汪志遠氏は新唐人テレビの取材に対し、臓器基準価格の公表の目的は「1つ目は、中国共産党による臓器移植の闇から人々の関心をそらすこと。2つ目は、(移植用臓器に)値段をつけることで、臓器が売買できることを明確に伝えていること」だと述べた。

追査国際の調査からは、中国共産党が長期にわたって臓器の代金を請求していたことが分かっている。いっぽう、中国衛生当局は、臓器が「自主的な有志者からの」提供であると表向きには謳っている。

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中国当局がトップダウン式に指示、軍の関与も

複数の地域で同時期に臓器の価格設定が行われることの背景には、中国当局からのトップダウン式の指示が関係しているとみられる。

6月8日、中国国家衛生健康委員会や中国共産党中央軍事委員会後勤保障部、財政部など7つの機関が共同で「人体臓器の取得にかかる費用徴求及び財務管理に関する方法(試行)」を発表した。「方法」は各地方政府や赤十字会、軍の関連施設等に送達された。

人体臓器の取得にかかる費用徴求及び財務管理に関する方法(中華人民共和国国家衛生健康委員会)

それによると、各地方政府や赤十字会、軍の関連施設等は移植用臓器の取得にかかる基準価格を設定し、公開しなければならない。また、臓器調達機関に関する規定もなされ、運営方針が規定されている。

「方法」が策定された理由は、「臓器の提供と移植を推進し、臓器の提供と移植事業の質の高い発展を促進するため」と記されている。

価格に合理性なし 専門家が指摘

年齢別・臓器別に異なる価格設定がされていることについて、中国本土の臓器移植事情に詳しい台湾の黄士維医師は「合理性はない」と指摘する。

中国共産党当局の文書によれば、取得価格は臓器の摘出や機能維持等の費用を元に算出されている。「しかし、公開されている資料では、いずれも腎臓より心臓の価格が圧倒的に低く設定されている。費用を考えれば全く非合理的だ」と黄医師は述べた。

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「心臓は摘出手術のあと速やかに運搬し、数時間以内に移植手術を行わなければならず、腎臓よりはるかに緊急性を要する。したがって、心臓の取得価格は腎臓よりも高く設定されないとつじつまが合わない」。このことから、臓器の取得価格は費用から算出されたものではなく、臓器移植産業における需要を反映したものであると黄医師は考えている。

大手製薬会社での勤務経験を持つ陳志瑜医師は、未成年者の臓器の取得価格が成人よりも低いことに疑問を呈した。未成年者のドナーが見つかる確率は成人よりはるかに低いため、理論的に考えれば成人のほうが低い価格となるべきではないかと語った。

識者「医療産業の位置づけに問題」

医療法人中庸会の中村和裕医師は長年、中国の臓器移植問題をウォッチし続けてきた。大紀元の取材に対し、中国では根本的に「医療産業」に対する位置づけがおかしいと中村氏は指摘する。

医療も産業の一つであるが、国民の命を衛る直接的な責務を持っている。河南省の行政官僚や医者たちは国家衛生における医療の位置づけを理解しておらず、臓器移植産業を「共産党の利潤追求のみの産業」とみなし、人間の臓器を「産業資源」としかみていない。

中村医師によれば、「臓器収奪」の対象者は、ウイグル人や法輪功学習者のみならず、共産党員以外の中国人民全体に及んでいる可能性があり、共産党の独裁支配が続けばその行為がさらにエスカレートする危険がある。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
蘇文悦
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