「ピアノ王子」と呼ばれる人気演奏家のユンディ・リの買春行為を通報し、同氏の逮捕に「貢献」した北京朝陽区のボランティア団体「朝陽群衆」は最近、官製メディアに頻繁に取り上げられ注目を集めている。
2013年以降、少なくとも20人近くの著名人が「朝陽群衆」の通報で、摘発された。麻薬を使用したジャッキー・チェンの息子の房祖名の逮捕も「朝陽群衆」の情報提供がきっかけだった。
中国メディアの報道によると、「朝陽群衆」の歴史は40年以上前にさかのぼる。1974年、中国共産党機関紙の人民日報は、朝陽区の民兵組織が公安当局に協力して6人のスパイを捕らえたという記事を掲載した。
朝陽区公安当局によると、2017年末までに同区内に実名で登録された「朝陽群衆」は13万人を超え、そのうち約6万人のアクティブメンバーが月平均2万件近くの情報を警察に提供していたという。
社会の隅々に浸透している「朝陽群衆」は警察当局にとって、なくてはならない存在になっている。中国当局は現在、積極的に活動している住民スパイに毎月300~500元(約5400〜9000円)相当の報酬を支払っている。任務遂行中に事故が発生した場合、最大120万元(約2160万円)の保険金と10万元(約180万円)の補償金が支給される。
北京在住の人権活動家である胡佳氏は7月6日、米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、「朝陽群衆の任務には、いわゆる『反動的なプロパガンダ資料』『禁止されたバナーやスローガン』『集まり』などを見つけたら、警察署や社区(コミュニティ、行政の末端組織)に報告することが含まれている。いずれも、市民の表現の自由を監視・通報するためのものだ」と語った。
胡氏は、最近の当局の動きから、「朝陽群衆」がすでに「地下労働者」から正規のスパイ部隊に変わった可能性が高いと推測している。
当局が推進する、住民スパイ組織のブランド化
北京市公安局の公式サイトによると、2017年7月時点、北京で登録された警備ボランティアは85万人以上で、「朝陽群衆」のほか、古い町並みが多く残る西城区では熱心な「おばさん」、ハイテク企業が集中する海淀区では高度なIT技術を身につけた「ネットユーザー」、市中心部から少し離れた豊台区では「説得」に長けた住民が活動している。
近年、中国当局は政治体制の安定を維持し、監視体制を強化するため、住民参加型スパイ組織(以下、住民スパイ組織)の規模を拡大し続けている。
北京市民政局は11月9日、公式サイトで「北京におけるコミュニティ社会組織の育成・発展のための特別行動の実施計画」を発表し、「朝陽群衆」「西城おばさん」など、ブランド化された住民スパイ組織を精力的に構築していくことを明らかにした。
計画案によると、北京市は2023年までに、都市部では平均15以上、農村部では平均8以上のコミュニティ情報組織を持ち、各コミュニティでは2つ以上の「ブランド化された」コミュニティ情報組織形成の目標を達成するという。
北京では、各地域の市民スパイ組織をベースに、市、区、郷、鎮の各レベルで情報組織を設立する、いわゆる「安心な暮らしづくりプロジェクト」を実施する。市民はこうした情報提供者の増加が、市民間の信頼関係の崩壊につながると懸念している。
いっぽう、市民スパイの情報提供で失脚した政府幹部は一人もいないという。
(翻訳編集・王君宜)
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