セルビアの中国工場で働くベトナム人労働者が11月中旬、劣悪な生活・労働条件などに抗議して2回目のストライキを行った。セルビアの国内ニュースで大きく取り上げられ、人権団体や欧州議会議員が関心を寄せている。
「空港に着くなり、パスポートを取り上げられた」
ベトナム人労働者はセルビア北部の都市、ズレニャニン市にある中国山東玲瓏タイヤの現地工場の建設に従事している。 セルビアと中国の政府はこのプロジェクトを、両国の「戦略的パートナーシップ」を示すものとして後押ししている。
工場の宿舎を現地取材したメディアは、約500人が悲惨な状況下で生活していると伝えた。宿舎には暖房もお湯もなく、寝床はマットレスのない二段ベッドである。 全員がセルビア入国直後に中国側にパスポートを取り上げられ、帰国もできない孤立無援の状態だという。
一部労働者の話では、中共ウイルス(新型コロナ)感染症に似た症状が出ても治療を受けられず、工場の幹部から「外出しないように」と言われただけだった。
NGO団体の活動家によると、ベトナム人労働者は5月から働いているが、半年間で給料は1回しか支払われていない。彼らはベトナムに戻ろうとしたが、パスポートが手元にないため、身動きが取れない。
労働者たちはこの半年間、賃金未払いや食料不足などを理由に、2回もストライキを行った。
あるベトナム人労働者は記者にこう証言した。「当初、労働契約を交わす際、セルビアのドイツ企業に雇用されると聞いていたが、セルビアの空港に到着するなり、中国企業が我々のパスポートを取り上げた」
この労働者は宿舎の内部を撮影した映像をAFPに送った。「待遇は、応募する際の約束とかけ離れている(中略)。我々はまるで牢屋で生活している」
取材時、数人の労働者がサンダルを履いて寒風の中で震えていたという。工場の警備員が労働者を監視し、メディアの取材をシャットアウトしようとした。
数百人のベトナム人労働者が11月17日、ストライキを行った。 今月、地元のN1テレビ局が放送したドキュメンタリー番組は、彼らの劣悪な生活環境にカメラを向けた。セルビアの新聞は工場の状況や従業員募集の不正疑惑を大きく取り上げた。
セルビア政府「反中勢力の陰謀」
一方、中国山東玲瓏タイヤ社は、ベトナム人労働者は同社に雇われたのではなく、中国の下請業者が雇用したとの声明を出した。
同国の2つの人権団体は11月下旬、共同報告書を発表した。労働者たちは人身売買または奴隷労働の被害者である可能性を示す大量の証拠があると報告し、セルビア当局に早急な対応を求めた。
セルビアの人権団体が中国企業の労働者人権侵害を指摘したのは今回が初めてではない。中国企業は沈黙を貫いている。
セルビアは中国にとって欧州での重要な投資先で、勢力拡大の基盤でもある。中国政府はセルビアを含むバルカン諸国に数十億米ドル(1米ドル=約113円)を投資してきた。
人権団体は、セルビア政府は中国企業を野放しにし、その環境汚染や人権侵害問題を放置しているなどと非難を繰り返してきた。
労働者によるストライキの発生後、セルビア政府は、工場の「非人道的」な状況に反対すると示したうえ、今回の事件は中国の投資に反対するための陰謀の可能性があると工場側の責任をごまかした。
アレクサンダル・ブチッチ大統領は就任以来、中国との関係を深化させ、かつては両国は「鋼鉄のような堅い友情で結ばれている」と豪語した。
欧州議会のドイツ議員ヴィオラ・フォン・クラモン氏は、「欧州連合(EU)加盟候補国が自国領で起きた強制労働を放置することは、容認できない」とセルビア政府の対応に苦言を呈した。
(翻訳編集・叶子静)
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