【寄稿】北朝鮮ミサイル発射停止から2か月…沈黙の背景 中露が握る“北のミサイルカード”とは

2023/11/17
更新: 2023/12/02

北朝鮮の不気味な沈黙

北朝鮮は過去2か月間、ミサイルの発射を行っていない。最後の発射は9月13日で、日本海の日本の排他的経済水域(EEZ)外への短距離弾道ミサイル2発だった。特筆すべきは、8月24日の人工衛星打ち上げ失敗と、その際「次は10月に打ち上げる」との予告にもかかわらず、10月の実施がなかったことである。

この不気味な沈黙は何を意味するのか?

7月12日に北朝鮮はICBM火星18型を発射した。4月13日にも火星18型を発射したが、このときはロケットの3段目(弾頭部分)が消滅した。3段目は実戦であれば核爆弾が搭載される部分である。

ICBMの原理は人工衛星と同じであり、ロケットエンジンにより大気圏外に出て軌道に乗って飛行する。だが人工衛星は周回軌道に乗るから地球の周りを半永久的に回り続けるが、ICBMの軌道は地球を1周せずに地表に激突する。

従って大気圏に再び突入するが、その際、大気の圧力により弾頭は高熱にさらされる。ここで耐熱加工が不十分であれば弾頭は溶解して消滅する。この耐熱加工の技術を再突入技術といい、軍事技術の秘中の秘であり、世界でも米露をはじめ数か国しか保有していない。

北朝鮮は4月の段階では再突入技術を確保できておらず、失敗した訳だが、7月には確保したと見られる。

ただし、十分な技術を確保したかどうかについては異論もある。というのも7月の発射は4月と同様、ロフテッド軌道で行われている。これは、ICBMを山なりに打ち上げて到達高度を高くし、その分飛距離を短くする方法だ。本来、米国に届くはずのICBMが、日本海に落下したのはそのためである。

だがこの軌道だと、通常の軌道よりも大気圏内での移動距離が短くなるので、高温化の度合いが、その分、低くなる。つまり通常軌道での高温に弾頭が耐えられるかどうかは、確認できていないのである。

露朝会談で何が決まったのか?

北朝鮮は7月12日のICBM 発射の後、19日に短距離弾道ミサイル2発を日本海へ、22日には巡航ミサイルを黄海へ、24日に短距離弾道ミサイル2発を発射した。

そして8月24日に人工衛星の打ち上げに失敗し、30日に短距離弾道ミサイル2発を日本海に、9月2日に巡航ミサイル2発を黄海に、それぞれ発射している。

そして9月13日に短距離弾道ミサイル2発を日本海に発射したのを最後に2か月間以上、発射を停止しているのだが、この13日は金正恩が極東ロシアのボストーチヌイ宇宙基地でプーチンと会談した日なのである。

つまり、この日に、プーチンから、当分の間は発射を手控えるように要請されたと見るのが自然だろう。なぜプーチンはそんな要請をしたのか? また北朝鮮はなぜ、その要請に従ったのか?

北朝鮮の核実験はなぜ行われないのか?

ICBMは核爆弾を搭載してこそ威力を発揮する。北朝鮮は2006年に核実験に成功しているが、これは核爆発に成功しただけであって、ICBMに搭載できるように小型軽量化をするために過去6回核実験を実施している。

ICBM用の核弾頭を実現するためには一般的に7回の核実験が必要であると言われており、北朝鮮がいつ7回目の核実験に踏み切るか、注目されてきた。

2022年3月にCNNは「北朝鮮が地下核実験の準備している模様だ」と報じた。同年5月には米国務省が「北朝鮮は月内にも核実験の準備を完了する見通しだ」と述べた。従って6月以降、北朝鮮はいつ核実験に踏み切ってもおかしくない状態だった。

ところが同年7月末に金正恩は「核使用は万全な態勢にある」と演説したのである。つまり「核兵器はいつでも使用できる状態だ」と述べたわけで、「核兵器は完成している」と示唆していることになろう。

核兵器を完成させるために核実験を準備しておきながら、実験をせずに核兵器の完成を公言するとは奇妙な話だ。これは事実上の核実験中止宣言であろう。つまり、何らかの理由で核実験を中止せざるを得なくなり、「核兵器は既に完成しているから核実験は必要ない」と言い訳しているのであろう。

では中止せざるを得なくなった理由とは何なのか? おそらく中国から中止の圧力が掛かったと見るのが妥当な見方であろう。

中国が北朝鮮の核実験に反対する理由は、一つには、北朝鮮の地下核実験場が中国との国境に隣接しているからだ。北朝鮮の核実験は中国に地震を引き起こすのである。だがこれは表面的な理由だ。核爆弾が小型化すれば、核爆発も小規模になり、地震も小規模になる。

本当の理由は、金正恩がトランプに出した手紙にある。そこには、対中防衛のため北京を射程に収める中距離核ミサイルは温存させてほしいと記されていたのである。

中国にとっても北朝鮮の核開発は脅威なのである。

米中会談と北朝鮮

15日に米サンフランシスコ近郊で、バイデンと習近平の会談が行われた。会談の概要が公表されたが、そこには北朝鮮についての言及がほとんどない。

これは10月18日に北京で行われたプーチンと習近平の中露会談でも見られた現象だ。つまり北朝鮮についての言及がほとんどない。

中露会談では同席したラブロフが、その日のうちに北朝鮮に向かい、翌日金正恩と会談しているから、中露首脳が北朝鮮について何らかの決定を行ったのは明白だ。

その決定とは、北朝鮮の軍事衛星の打ち上げを米中会談までは、実施させないとする中露の合意だったろう。北朝鮮の軍事衛星はロシアの技術支援によっているから、ロシアが技術供与を停止すれば、北朝鮮は実施できない。だから10月に打ち上げると北朝鮮が予告しながら実施できなかったのだ。

つまり10月の中露会談は、9月の露朝会談で北朝鮮のミサイル発射を停止させたことをプーチンが習近平へのお土産として実現したと言っていい。

そして11月の米中会談は、10月の中露会談で北朝鮮の衛星打ち上げを停止させたことを習近平がバイデンへのお土産として実現したと見ることができよう。

今回の米中首脳会談の水面下で、半導体などを巡って秘密の合意があった可能性がある。もしそうなら、米国が合意を履行しない場合、北朝鮮の衛星打ち上げを許可するというカードを中国は手にしていることになろう。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。