オープンAIは2月16日、文章だけで動画を作成する「Sora」を発表した。「Sora」の登場によって、一夜にして、映画、テレビ、ビデオゲームなど、何百万もの人が失業のリスクに直面するようになる。
ユーザーがテキストを入力すると、「Sora」をは非常に詳細な背景、複雑なマルチアングルショット、感情的なキャラクターを含む1分間の高精細度動画が生成される。
「1人の映像クリエイターを助けるモデルが、他の10人のクリエイターを失業させるのだ」と、非営利団体フェアリー・トレーニングのエド・ニュートン・レックス最高経営責任者は指摘した。
AIが雇用を脅かしているのは、初めてのことではない。 今年に入り、AIに投資した結果、138のテック企業が従業員を解雇した。解雇者総数は3万4千人に達した。 1月に入ってからは、マイクロソフト、スナップ、イーベイ、ペイパルが数百から数千の雇用を削減した。
AIによるレイオフの波が迫っている
2月上旬、電子署名・電子契約サービスのDocuSign(ドキュサイン)は、コスト削減と低迷する株価を回復させるために、従業員の約6%にあたる400人をレイオフすると発表した。 その翌日、スナップショットの親会社であるSnapは、投資成長を確保するため、従業員の10%を解雇すると発表した。認証ソフトウェアを手掛けるOkta(オクタ)は、社員の約7%に当たる400人の解雇を予定している。Zoom、Google、Amazonなど、テック業界の大手企業も近頃、レイオフに踏み切っている。
ニューヨーク大学で人的資本管理の臨床教授を務めるアンナ・タヴィス氏は、レイオフの「最大の推進力は自動化だ」と述べた。
言語学習ソフトウェア会社のDuolingo(デュオリンゴ)は、契約社員の10%を削減し、一部のコンテンツ作成にAIを使用すると発表した。米物流大手UPSは1万2千人を解雇すると発表した。 同社は機械学習を利用して顧客に請求する配送料金をより適切に決定し、価格設定部門に必要な人員を削減する。
ドイツのソフト開発大手SAPは1月、「再編計画」の一環として、AIをビジネスに取り入れるために20億ドル(約3千億円)以上の投資をすると発表した。同時に、8千人のリストラを計画している。 一部の従業員は解雇され、他の従業員はAIを使用するための再教育を受けることになる。
同月、人工知能へのさらなる投資に伴い、Googleは広告営業チームのスタッフ数百人を解雇したと発表した。同社はリストラの直接原因がAIだと明言していないが、従業員へのメモによると、チーフ・コマーシャル・オフィサーであるフィリップ・シンドラー氏は人員削減を発表した際、「我々がAIとともに重要な瞬間にある」と述べた。
Resume BuilderがAIを活用するビジネスリーダー750人を対象に行ったレポートによると、44%がAIの効率化によって2024年に解雇されると回答している。
また、Asanaの「2023年の職場におけるAIの現状」報告書によると、従業員は自分の仕事の29%がAIに取って代わられる可能性があると回答している。
数億人が自動化によって職を失うかも
マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)の報告書によると、理論的には、世界中で報酬が発生する仕事の約半分が、テクノロジーによって自動化される可能性がある。約60%の業種の中の少なくとも3分の1の仕事が自動化される可能性がある。すべての労働者にとって職場が大きく変わるだろう。
同報告書は、自動化が雇用に与える潜在的な影響は、職業や部門によって異なると指摘している。
自動化の影響を最も受けやすいのは、機械の操作やファーストフードの調理など、予測可能な環境での肉体労働だ。 担保ローンの審査、パラリーガル、経理、バックオフィスでの取引処理などもこの類に含まれる。
2030年までに世界中で4億人から8億人が自動化によって失業し、新たな仕事を見つける必要が生じると推定されている。
先進国の場合、新たなスキルを習得し、新たな職業に就かなければならない労働力人口の割合は比較的に高いと考えられる。推定では、2030年に、米国とドイツでは3分の1、日本では半分近くの労働力人口が新スキルを習得しなければならない。
2016年、iPhoneの受託製造最大手であるフォックスコンは、6万人の労働者を解雇し、産業用ロボットに置き換えた。その一部は「フォックスボット」と呼ばれる製造ロボットで、最大20種の一般的な製造作業をこなすことができると言われている。
NikeとReebokも製造工程の自動化に取り組んでいる。Nikeは2013年、カリフォルニア州を拠点とする産業用ロボットのベンチャー企業Grabitに投資した。
小売業の仕事もAIに代替されている。アマゾンは倉庫で4万5千台のロボットを使用している。ウォルマートのロボットはショッピングカートに取り付けて店内を移動することができる。
AIが仕事を代替することによって引き起こされる大規模な失業は、AIが人間社会を破壊するリスクのひとつにすぎない。
専門家、「AIは人類社会を根本から覆す」
ピュー研究所の報告は、AI技術の進化により、人々の自主性が脅かされていると指摘している。日常生活における意思決定がプログラムによって動かされるツールに委ねられつつある。デジタル化が進む世界で、人々は自らの独立性、プライバシー、選択の自由をある程度犠牲にしている。
同報告は専門家の見解を引用し、「AI時代における人類の運命を左右する最も恐ろしい変化は、自らの意志を行使する権利を失うことだ」と警鐘を鳴らしている。
「デジタルライフがもたらす即時性と利便性は、そのプロセスに対するコントロールを代償にしている。自動化されたシステムを所有するのが特権階級だ。システムが複雑化するのに伴い、人々はデジタルツールに対する盲目的な依存を深めている」
ピーター・ライナー博士はブリティッシュ・コロンビア大学精神医学部の教授であり、人工知能センターの創設者でもある。同氏はAI技術から恩恵を受けるのはAIシステムを支配する者たちだ、一般人は苦しむことになると指摘した。
独裁国家では、政府がAIシステムの究極の支配者。AI技術の受益者は独裁国家となり、その国の国民が犠牲者になる。
AI技術が人間社会を覆す究極のシナリオは、AIが人間を支配することだろう。
「人間性」があると認められる人工頭脳に贈られる賞・ローブナー賞の創設ディレクターであるロバート・エプスタイン氏によれば、2030年までにAIは何らかの知覚能力を持つようになり、大多数の通信、金融取引、輸送システム、電力網、兵器システムのほとんどを程度の差こそあれコントロールできるようになるという。
「彼ら(AI)は私たちが建設した 『InterNest「Internet(インターネット)」と「nest(居心地の良い休み場所・巣)」を組み合わせた造語』に住むことになり、追い出すことはできない。 我々を助けるか、無視するか、滅ぼすか、どのように人間と接するかは彼ら次第であり、どの道を選ぶかを予測することは不可能だ」
ロバート・エプスタイン氏は、もし将来、AIの危険性に気付いた人類が、知覚力を持つAIを破壊しようとする日が来たら、AIは容易に人間に反撃できるだろうと語った。
「彼らは私たちをハエを払うように撃退する——スティーブン・ホーキング氏、イーロン・マスク氏、その他多くの人がすでにそのような可能性を警告しています」
また、人間は欲望と無知に駆られて、「避けられない事態が起こるまで」自分たちがほとんど理解できていないAIの開発を続けるだろうと述べた。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。