中国八大酒の1つであり、世界三大蒸留酒としてブランデー、ウイスキーとともに挙げられる茅台酒(マオタイ酒)は、日本でもよく知られ、愛飲されている。ただし、有名かつ高価であれば、必ずニセモノが大量に出回るのが今の中国の常である。
このほど、中国のニセ「茅台酒」が絡んだ事件が話題になっている。
今年2月、ある女性客が陝西省西安市にある店で購入した茅台酒(貴州茅台酒)の真偽を確かめようとした。すると、飛び出してきた店員によって酒ビンを奪われて割られ、そのうえ「消費者クレーム受付に通報するなら殺すぞ」と脅される事件が起きた。
この店員のあまりに暴力的な態度を捉えた動画が今月3日、SNSに投稿されて物議を醸すことになった。関連トピックスは、複数の中国SNSのホットリサーチ入りしている。多くの中国メディアがこの事件を取り上げており、現在、現地の公安当局や市場管理当局が介入している模様だ。
中国メディアによると、事件が起きたのは2月17日。この日、西安へ旅行に来た女性客2人が、西安にある酒類や煙草の専門店「五糧液茅台醬香体験館」で茅台酒を2本購入。代金は5500元(約11万円)と、かなりの高額な買い物だった。
支払いを済ませた女性客は、購入した茅台酒の包装に印刷された「真偽を調べられるQRコード」をスキャンして、この酒が本物かどうか確かめようとした。その時、3人の店員から、一連のひどい扱いを受けてしまう。
店員は「この酒はあんたらには売らない」と一方的に告げると、カウンターから飛び出して、店の入口ドアを閉めた。その後、女性客と激しい口論になった。
店員は、女性客の手から、すでに支払い済みの商品を奪おうとしてもみ合いになった。その過程で、女性客は転倒している。しかも店員は、なんと奪った酒ビン2本を割る暴挙に出たという。
店員はさらに、警察に通報しようとする女性の手から携帯電話を奪おうともしていた。店員は女性客に向かって「神様を呼んでも無駄だ。315(消費者クレーム受付の12315番)に通報するなら、お前を殺すぞ」などと脅した。
この異常な事態に、女性客は最終的に110番通報した。西安市の市場管理当局は、中国メディアに対し「問題の販売店は、すでに差し押さえた。そこでニセ酒を販売していたかどうかについては調査中だ」と明かしている。
また、西安市公安局によると、事件に関わった店員3人の身柄は公安が確保しているという。
(「315に通報するのならば、お前を殺すぞ」と女性客を脅す、酒販売店の店員)
この事件の悪質さは、ネット民に衝撃を与えた。「店の入口ドアを閉めるのは不法監禁に当たらないか」「真偽認証を試させないところからすると、ニセ酒だろう」「これは犯罪行為だ」など、熱い議論が巻き起こった。
今回のケースについて、ニセ酒であるか否かの結論は明白である。それがニセ酒であるからこそ、店員が逆ギレして暴言や暴行に及んだと考えるのが妥当な想像であろう。本物の茅台酒を正々堂々と売っているのなら、客にはむしろ真偽を確かめさせるはずだ。
高価な茅台酒を筆頭に、中国でニセ酒が氾濫しているのは周知の事実である。近年では「ニセ茅台酒」の手口が多く暴露されているため、消費者が高級な酒を買う際には、その真偽を確かめる人も多い。
伝統的な茅台酒は、ガラス瓶ではなく、白い磁器製のボトルに詰められる。浙江省杭州市当局が昨年末に公表した「茅台酒に関する偽造事件」では、偽造者は極細のドリルを使ってホンモノの茅台酒の酒瓶に小さな穴を開け、そこから中身を抜き取った後、ニセ酒を注入する。
しかも、ボトル空いた小穴には「磁器の粉を詰めて塞ぎ、その上にラベルを貼り直す」という手の込みようで、非常に発見しにくい。開けられた穴は0.2mmとあまりにも小さいため、酒類の販売業者であっても発見するのは難しいという。
本物の茅台酒の代わりに詰められるニセ酒は、アルコール度数はやたらに高いが、コストが安い粗悪品である。しかも、それが正規の酒である保証は全くない。
なにしろ、地溝油(下水溝の廃油を使った食用油)が出回っている中国である。飲めば失明するような工業用アルコール(メチルアルコール)がニセ酒に混入している危険性は、もとより否定できない。それが「2本で5500元(約11万円)」であるとすれば、その犯罪性は、どこまでも高くなる。
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