空母は力を失い、潜水艦が物を言う時代に

2024/11/03
更新: 2024/11/01

2024年7月29日に掲載した記事を再掲載

ほんの数十年前まで抑止力の核を担っていた航空母艦(空母)は、もはやその力を失いつつある。

第二次世界大戦以降、長年にわたり米国は空母を主力として世界各国・各地域に海軍力を展開してきた。ところが、深刻化する対艦ミサイルと潜水艦の脅威を前に、抑止力としての空母の運用には大きなリスクを伴うようになった。

一方で、対潜水艦戦闘(対潜戦・ASW)の進歩は潜水艦がもたらす脅威に追いついていない。米国は、もはや十分な抑止力を発揮できない空母ではなく、潜水艦を用いて対中国抑止を図る必要がある。

その良い例が、1995年に発生した第三次台湾海峡危機だ。台湾にミサイルを発射する中国に対し、米国は台湾海峡に空母ニミッツを送り込み、中国側の激しい非難に遭う。翌年の3月、中国の脅威にさらされる台湾への支持を示すため、米国は空母ニミッツとインディペンデンスを中心とした2つの空母戦闘群を台湾に派遣した。

これを受け中国側はクリントン政権に対し、台湾海峡を通過するいかなる艦船も「火の海(a sea of fire)」へ突入することになると脅しをかけた。結局、2つの空母戦闘群が台湾海峡を通過することはなかったが、その後も台湾周辺に留まり続け、米国の圧倒的な海軍優勢を見せつけた。

米海軍大学校が発表した報告書によれば、中国は米国による空母展開に屈辱感を覚え、対米海上軍事戦略「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」を発案するに至った。タイ・バンコクに拠点を置く防衛専門誌『アジアン・ミリタリー・レビュー(Asian Military Review)』も、「米国海軍が中国の裏庭で自由に作戦を展開したことで、中国はプライドを傷つけられた。そこで、『九段線』のラインに囲まれた海域から米軍を排除したいという感情的な欲求が生まれた」と指摘している。

1995〜96年当時、米国は自信を持って海軍を中国近海に展開できた。今や状況は大きく変わった。1996年以降、中国は対艦ミサイル能力を急激に拡大し、その射程範囲は台湾、フィリピン、日本などを含めた第一列島線をはるかに上回る。

事実、中国の東風21や東風26といった長射程を誇る地上配備型の対艦弾道ミサイルは、新型軍事偵察衛星が提供するリアルタイム情報と組み合わさり、台湾から遠く離れた米空母にも脅威を及ぼしている。

中国軍の対艦ミサイル能力に疑問は残るが、米国が中国側の主張を試すために空母を危険に晒すようなことはしないだろう。結果として、中国が「A2/AD・接近阻止・領域拒否」戦略において大きく前進したという認識が米側のリスク計算に影響を与え、空母による台湾支援能力は著しく阻害されることになる。

そこで、重要度を増すのが米国の攻撃型原子力潜水艦だ。

中国軍も通常動力型の潜水艦を多数保有しているが、当面のところ平均的な潜水艦の性能では米国が圧倒的にリードしている。また、世界的な対潜水艦戦闘能力は発展途上にあり、米国はその気になれば台湾海峡で海上拒否作戦を発動し、中国海軍の動きを封じ込むことができる。

米潜水艦の運用を議論する前に、まずは熟練した搭乗員の乗る潜水艦たった一隻が、海上に浮かぶ艦船にとってどれほど脅威かを知るべきだろう。

それを最もよく示しているのは、2005~07年にかけて行われた米海軍の演習だ。米国側は空母ロナルド・レーガン率いる空母打撃群を派遣し、対するはスウェーデン海軍の通常動力型潜水艦「ゴトランド」だった。

演習が開始されると、ゴトランド潜水艦は空母レーガン、駆逐艦、巡洋艦、対潜哨戒機からなる空母打撃群の対潜哨戒を突破し、空母を撃沈するのに十分な量の魚雷を浴びせた。そして、探知されずにその場を脱出したのである。

これにショックを受けた米海軍は、ゴトランドを2年間リースし何度も演習を行った。ゴトランドは米海軍が誇る最強の対潜水艦戦闘能力を何度も掻い潜り、空母に致命傷を負わせた。

著名な海軍史家でアナリストのノーマン・ポルマー氏は、ゴトランドは米空母機動部隊を「圧倒した」とし、米外交専門誌『ナショナル・インタレスト』に寄稿した関係筋の話によれば、米対潜水艦戦闘の専門家らはそれにより士気を喪失した。

無論、米空母打撃群は演習中の航行速度を制限されていたため、ゴトランドを速度で振り切るという強力な防衛アセットを発揮できない不利な条件に置かれていたことは確かだった。

悲しいことに、対潜水艦戦闘能力は2005年当時と比較してあまり改善していない。台頭するライバル国家の潜水艦はますます空母にとっての脅威となり、特に台湾海峡や紅海といった狭い水域で展開する空母が危険に晒される。同様に、中国もここ20年にわたって対潜水艦戦闘力を軽視してきたがゆえに、米海軍は潜水艦を海上拒否アセットとして運用することで、敵の海上攻撃に対する大きな抑止力を発揮できる。

海上拒否戦略は、中国艦艇との交戦や艦船の破壊を意味しない。その意図は、台湾海峡の奥底に潜り、そこを通過して台湾へ攻め込もうとする中国海軍に脅威を与えるためだ。また、価値の高い海上目標をいつでも狙えるというのも戦略の一部である。

問題は、そのような戦略を実行するための潜水艦数が減少していることだ。今後は、他の重要な戦略的海域から中国近海へ潜水艦を移動させる必要があるだろう。仮に潜水艦を結集できたとしても、最後は中国側がどれほどの犠牲を覚悟するかに左右される。

米海軍協会の月刊誌『Proceedings Magazine』に寄稿した退役軍人のウィリアム・トッティ氏は、現在の潜水艦保有数で想定した場合、中国軍による犠牲を顧みない台湾侵攻を止めるのは困難だと指摘する。

ただし、中国がそのような損失を許容できるかは疑わしい上、米軍は大量の機雷を設置し侵攻のコストを上げることで、海上拒否戦略を増強することができる。一方で、今の潜水艦保有数では中国に力で押し負ける可能性がある。だからこそ、米国は造船所の増設を急務とし、既存の潜水艦の整備・改修と同時に新しい潜水艦の製造を素早く進める必要がある。

低コスト、高いメンテナンス性、静音、長い耐用年数などの特徴を備えた通常動力型潜水艦を製造することで、コストパフォーマンスの改善も達成される。そのような通常動力型潜水艦を前方に展開させれば、既存の原子力潜水艦は速度と持続性の利点を最大限に生かした運用が可能となる。

中国は武力を用いた威嚇的行為を繰り返しているが、台湾侵攻の可能性はいまだに不明だ。仮に有事となった場合、米国が侵攻を阻止するのかどうかもわからない。唯一はっきりしているのは、海軍力を展開する上で潜水艦がますます重要になるということだ。

米軍が長期間にわたる海上拒否作戦を実行できるほどの潜水艦を保有していれば、中国による台湾侵攻の可能性と米国が実際にその作戦を実行する必要性も下がるだろう。そして、それは台湾と米国にとって健全な発展をもたらす。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。

国防改革を中心に軍事技術や国防に関する記事を執筆。機械工学の学士号と生産オペレーション管理の修士号を取得。