中国河北省唐山市で2022年6月10日、飲食店で食事中の女性客たちが、複数の見知らぬ男に集団暴行される事件が起きた。
何の落ち度もない女性の映像が拡散され、凄惨なリンチを受ける状況が、ネット上で大きな話題となった。これが華人であれば誰もが知る、「唐山集団暴行事件(610事件)」である。
事件から2年以上経った、今月5日と6日、事件に関わった元警察官である陳志偉さん(唐山公安局路北分局機場路派出所所属)は「事件の真相」および「自身が受けた不当な弾圧」などについて実名で告発した。
陳さんは「自分はいま(唐山ではない)別の省にいる」と明かしたうえで、自撮り動画のなかで告発をし、それを自身のSNSに投稿した。陳さんは自らの身分証明書と「警察官」であったことを証明する「警察証」までカメラの前に提示して見せた。
告発
以下が、陳さんの告発内容の一部邦訳となる。
「私は事件発生後、最初に現場に到着した者だが、現場に到着した時には通報からすでに30分程経っていた。理由は、事件発生当時、当直の警官たちは署におらず、外で酒を飲んでいたからだ。自分は当直ではなかったし、事件のことについては後から知った。自分のところへ『現場へ行け』の命令が下った時は、通報からずいぶん時間が経っていた。自分が指示を受けて、現場に駆けつけるのにかかった時間は10分余りだった」
「しかし、自分はその事実を、唐山市の多くの部門、十数人の職員に面と向かって、正直に話した。『5分で現場に駆け付けた』と書かれた警察のプレスリリースの原稿内容の読み上げを拒否した。すると、その場にいた市の役人はテーブルを叩き、『いいからとにかく原稿通りに読め!』と脅した」
「その後、自分は現地当局によって調査された。しかし、自分に対して不当な取り調べが行われ、違法な調書を作成し当局は真相を隠蔽した」
「自分が事件現場への到着が遅れたことで、加害者たちに現場から逃走する時間を与えたことの責任を取らされた。当局は私に責任を負わせるために、私を迫害し、嘘の罪をでっち上げ、有罪にした」
陳さんはその後、懲役1年と1か月の判決を受け、2022年9月上旬拘置所に放り込まれ、昨年7月にようやく自由の身となった。
彼は拘置所にいる間も、釈放された後も、何度も唐山市の裁判所や検察庁、紀委監委、陳情局など様々な政府部門に対して、この案件に存在する問題について告発してきた。陳さんが告発を寄せた政府部門はいずれも「受理した」としているが、いっこうに進展が見られなかったという。
陳さんは動画のなかで、「自分は、事件に関連する各種証拠や証人に関する様々な客観的な映像や録音、SNSのチャット記録を持っている」「今後も事件真相に関する告発を続けようと思う」と告げ、「私は自分の言ったことに関して法的な責任を負います」と述べた。
陳さんが実名で告発した翌日(8月6日)、唐山市当局は「彼が反映した問題はすべて事実無根だ」と主張。
二度目の告発
最初の告発から1日経った6日、陳さんは再度SNSに自撮り動画を投稿し、「居場所がバレた」ことを明かした。
「いま唐山当局は自分の居場所を突き止めており、その手先はすでに自分の住んでいるところへやってきている。ドアを何度もノックされ、『上があなたに会いたがっている、あなたの問題は唐山に戻って解決しよう』といって、自分を唐山に連れ戻したがっている」
「私は世間に震撼を与えたあれほどの大事件を実名で告発したんだ、本当にプレッシャーが大きすぎる。身の安全を考慮して、私はドアを開ける勇気もないし、唐山に戻る勇気もありません」
などと述べ、陳さんは、事件発生当時の通報を受けてから、自身が現場に駆け付けるまでの過程について再度伝えた後、次のように締めくくった。
「上の調査部門が介入し、私が告発した問題について徹底調査し、真相を示してほしい。私は今回、実名で告発した以上、もう後戻りはできない。自分に自由や命がある限り、最後まで戦う」
陳さんの投稿をXで共有し、「唐山政府は他省にいる私を逮捕しようと人をよこしている、私の住まいまで来ている、拡散してほしい」と陳さん本人から依頼コメントを寄せられた、中国国内の情報を発信するインフルエンサー「羅翔(@LUOXIANGZY)」は次のようにコメントした。
「陳さんは危険な状態にあるようだ! 唐山当局は悪名高いマフィア組織だ、おそらく陳さんは口封じに殺されるだろう」「あなた(陳さんを指している)はおおざっぱすぎるよ、身を守るための準備を整えるべきだ、あなたが(中)国内にいる限り、彼らはいとも容易くあなたを見つけ出せるのだから」と「羅翔」は警告した。
(「羅翔(@LUOXIANGZY)」による投稿)
現在、彼のSNSアカウントでは告発動画も含めて投稿がすべて削除されている。
世論の力
事件初期から、加害者の男らに対する現地警察のあまりにも甘すぎる対応をめぐって、「警察当局と地元ヤクザとの癒着」が問題視されてきた。
怒涛の世論の圧力もあって、事件後、現地当局は加害者ら28人を起訴した。主犯格の陳継志は懲役24年、残りの27人には「懲役半年から11年」の判決が言い渡された。
今年1月、事件加害者を庇護し、後ろ盾となった唐山市公安局「路北分局」の元局長・馬愛軍は、懲役12年の判決を言い渡されている。
しかし、被害者女性4人の身元は、2年以上経った今も謎のままである。
官製メディアは「快復に向かっている」とする内容の報道をしているが、「4人とも事件の最中および事件直後に加害者らによって残忍に殺害された」ことを訴える関係者証言が、数多くネットに出回っているため、「被害女性が本当に生きているという証拠を見せて」とする声が華人圏のSNSにあふれている。
事件に関わった元警官の告発動画をめぐり、SNS上では「被害を受けた女性4人はいまどうなっているのか? それだけを知りたい」という声が殺到している。
(2年前、世間を震撼させた中国の「唐山集団暴行事件」の監視カメラ映像。「被害を受けた女性4人はいまどうなっているのか?」を問うSNS投稿)
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