「遺体転売……」と聞いても日本にいる私たちはピーンと来ないが、このゾッとする衝撃的事実は中国社会に大きな衝撃を与えており、いまや検閲対象の「敏感ワード」となっている。
事のきっかけは、ある北京の弁護士による「関与した企業を摘発した警察当局の資料」に基づいたSNSでの「告発」である。
易勝華(えきしょうか)弁護士は7日、「山西省のある会社は、20~60歳の『病死ではない遺体』を、多くの火葬場や病院から買い漁り、そうして違法に入手した遺体は、暴力的に解体され、骨を加工した後に、移植用に病院に販売されていた。事件は公安が調査しており、被告人は70人以上」
「私は長年刑事事件担当の弁護士としてやってきて、あらゆる事件を扱ってきたが、これほどの衝撃的な怒りを覚えたのはこれが初めてだ。火葬場から持ち帰った骨灰が家族のものではないかもしれない。死後に遺体を乱暴に解体されるなんて、あんまりではないか! この事実を聞いた時には、全身震えたよ!」とSNSに投稿した。
この衝撃的な投稿はSNSで拡散され、多くの中国メディアまでもが追跡報道をすることになった。それによると、「山西奥瑞生物材料有限公司(山西省太原市)」は2015年以降、複数の火葬場や病院に勤務する医師らから遺体を違法に入手して解体を行い、骨を取り出して移植用として販売した。同社は遺体を4千体以上を集め、3億8千万元(約78億円)の利益を得ている。警察は同社から人骨を計18トン押収し、事件に関与した75人を摘発、全員が容疑を認めている」という。
しかし、この「事件」はいま中国のネット上で封殺に遭っており、中国大手メディア各社による関連報道は、全て削除された。
一方、中国SNSウェイボー(微博)でも、「遺体転売」「死体販売」といったトピックスについて検索すると、「表示できません」と表示され、同件を取り上げた複数の有名なインフルエンサーによる投稿や公式アカウントなども、関連トピックスに対する封殺が行われている。
こうした「徹底した封殺」の背後には「政府の行動」があるとされており、「政府が動いたからには、この件が本当であること、そして根深い」ことを裏付けていると考える人も多い。
このほか、事件を最初に告発した易勝華弁護士や所属弁護士事務所の上司は、北京市の司法局による事情聴取を受けることになったと同弁護士が明かしている。
事件は中国社会に多大な衝撃を与え、ネット上では
「この国終わってる」
「生きている時は臓器収奪されるし、死んでもなお体をバラバラにされて売られるなんて」
「利益のためならば、死者の尊厳をも踏みにじるのか、信じられない」
といった嘆きが広がっている。なかには、
「もう無料医療などといわない、中国の医療システムが私の命をとらないだけでもラッキーだ」
という声もあった。
告発した弁護士の「決意」
「死体転売事件」を最初にネットに公表した易勝華弁護士による投稿(7日)の一部翻訳を紹介する。
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昨日の午後、とある知り合いの弁護士からこの事件を知った。その時私は、身の毛がよだつ思いだった。
山西省のある会社は20~60歳の『病死ではない遺体』を多くの火葬場や病院から買い漁り、そうして違法に入手した遺体は、暴力的に解体され、取り出された骨を加工して、移植用に病院に販売されていた。事件は公安が調査しており、被告人は70人以上だ。
これが何を意味するかというと、つまり、家族の遺体をそれら(遺体転売を副業とする従業員のいる)の火葬場に送った後、持ち帰った骨灰が本当に家族のものではないかもしれないということだ。どこかの動物の骨灰かもしれないし、例え家族のものだとしても、一部欠けたものだろう。
「死後に解体されるなんて、あんまりではないか! この事実を聞いた時には、全身震えたよ!」
そして、現行法では、このような犯罪者に対する罪は「窃盗」「侮辱」「死体損壊」で、処罰は最高でも(懲役)3年でしかないのだ。
これほど巨額の利益を生み出し、そしてひどい犯罪であるのに、
「処罰はこんなに軽いなんて、これでは被害者家族はたまったもんじゃない。こんな処罰では犯罪者を震え上がらせることはできないだろう」
「これではどうやって、この残虐きわまりない、倫理に反したブラックサプライチェーンを根こそぎ消滅できるのか?」
いまはわずかなモノの窃盗だけでも3年(懲役)以上、強姦罪でも3年(懲役)スタートだ。あれほど劣悪な行為(遺体転売)となれば、死刑でも軽い刑罰だ。しかし、実際には3年以下だ。
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再投稿
最初の投稿から1時間後、易弁護士は再度SNSに投稿し、「北京市司法局から電話がかかってきた。未決案件の情報を発信するのは妥当かどうかということについて、『交流』された。ご心配ありがとうございます。この許せない現実を変えるためなら、私はそれ相応の代償を払うことも厭わない」と書いた。
しかし、翌日、
「自分の投稿は非公開(自分だけが見れる)になっているようだ。これは上が手を打ったのだろう」
「自分の投稿はSNSにトレンド入りしていたが、削除された。司法局からの電話も相次いでいる」
と同弁護士は自身のSNSに相次いで投稿し、弾圧されている現状について明かしている。
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