「交渉」vs「戦争継続」衝突するウクライナ政策

2024/10/20
更新: 2024/10/31

トランプハリス両候補がさまざまな政策方針において顕著な違いを見せる中、とりわけウクライナをめぐる政策について両者は全く異なるアプローチを提示している。

ハリス氏は自らをバイデン政権の継承者としてみなし、対ロシア経済制裁と無期限の対ウクライナ援助を宣言している。

一方トランプ氏は、ロシア・NATO間の緊張を高めるとしてハリス氏の政策を非難した。代わりに、自身が平和的な仲介者となってロシアを交渉のテーブルへ連れ戻し、西側諸国との関係再構築を行うと主張している。

両者とも、いかにしてロシアとウクライナを同じテーブルに座らせ和平交渉を成立させるかの具体的な方法には言及していない。ウクライナ問題の最終的解決に対するそれぞれのアプローチを声高に強調するだけだ。

地政学リスクコンサルタントのサム・ケスラー氏は、ウクライナに対する姿勢の違いは「外交政策における異なる二つの哲学」から生じていると話す。

民主党には、ウクライナ戦争を通じてロシアの弱体化を狙う冷戦的思考が根底にある。それに対し共和党は、アメリカが持つリソースに基づいた現実的外交を展開し、対中政策に焦点を合わせるものだ、とケスラー氏は指摘する。

この二つの行動哲学は、戦略のレベルで大きな違いを見せる。

「ハリス副大統領の立場はウクライナへの支援継続…対するトランプ元大統領は、事態が深刻化してロシアとの関係修復が不可能になる前に、戦争を終わらせるという立場だ」

国際システムに「ストレステスト」をかけるハリス氏

ハリス氏は、自らがウクライナの主権および領土の一体性を守ることに努め、50か国を超えるウクライナ支援ネットワークの構築によってウクライナの防衛力維持に尽力してきたと述べた。

さらに、交渉によって戦争を終わらせるトランプ氏のやり方はロシアへの屈服に等しいとして、そのような手段は支持しないとの立場をとっている。

9月に行われたウクライナのゼレンスキー大統領との会談でハリス氏は、ロシアへの領土譲与に関するいかなる提案も「危険かつ受け入れられない」ものだと述べた。

「領土譲与案は平和のためのものではない」「それらは降伏のための提案だ」、とハリス氏は指摘した。

ミサイル発射実験を行うアメリカ軍(John Hamilton/U.S. Army via AP, File)

ケスラー氏が指摘した冷戦思考を反映するように、ハリス氏はウクライナ支援の理由を「米国の戦略的利益に関わるためだ」とした。

ケスラー氏によれば、ハリス政権が戦争を通じてロシアを弱体化させられると考えた場合、バイデン政権と同様、直接的あるいは間接的に戦争をエスカレートさせる可能性がある。

「ハリス政権はウクライナ支援を継続する可能性が高いだけでなく、アメリカおよびNATOをロシアとの直接的な戦闘に巻き込むほどにまで事態を深刻化させるかもしれない」

事態の深刻化を招く重要なファクターは、ウクライナがアメリカが供与する長距離ミサイルを用いてロシア領内の目標を攻撃できるかどうかだ。

ゼレンスキー大統領は、ロシアを「和平へ引きずり出す」ためだとして米長距離ミサイルをロシア領内で使用する試みを続けてきた。狙いは、プーチン大統領を交渉のテーブルに引っ張り出し、交渉を有利に進めるためだ。

これまでアメリカは、ロシア領内の奥深くの標的に対する米供与ミサイルの使用を禁止し、その要求を退けてきた。

ゼレンスキー大統領は9月に訪米し、ホワイトハウスで「ヴィクトリー・プラン(勝利計画)」を提示した。その焦点こそ、バイデン大統領およびハリス副大統領の長距離兵器使用に関する態度を変えることだったと言われている。

ロシアはこれに関して、ロシア領内でのミサイル攻撃が認められれば、ウクライナとアメリカ双方による挑発的行動とみなすと示唆した。

9月下旬、ロシアのプーチン大統領は記者団に対し、政府が核兵器ドクトリンの変更を検討していると述べた。

仮に変更が実現すれば、ロシアは直接的な戦闘の有無に関わらず、自国への攻撃を支援する核保有国に対して核兵器を使用できるようになる。

プーチン大統領は、核保有国が「戦略爆撃機、戦術攻撃機、巡航ミサイル、ドローン、超音速機」などを用いて大規模攻撃を仕掛けた場合、核兵器による反撃を行う可能性があると威嚇した。

すなわち、アメリカ製の長距離ミサイルをウクライナがロシア領内で使用した場合、アメリカはロシアによる核報復の標的になりうることを意味する。

ドイツ・ミュンヘンで会談を行うゼレンスキー大統領とハリス副大統領(Tobias Schwarz/POOL/AFP via Getty Images)

ハリス政権下においてアメリカは世界の同盟網を不安定にさらし、ロシアと対峙する中で自国のリソースを削り続ける。これは、国際社会にとって「ストレステスト」がかかることを意味する、とケスラー氏は語る。

「ウクライナ支援の継続は、国際システムを不安定な状態に陥れる。輸送、サプライチェーン、製造業をはじめ、国際経済と関係する幅広い分野に打撃を与える可能性がある」

ロシアとの妥協を目指すトランプ氏

ウクライナ戦争に対するトランプ氏のアプローチは、世界最大の核兵器保有量を誇るロシアの脅威を踏まえたものだ。

トランプ氏は9月のテレビ討論会で、バイデン政権はロシアの核兵力を軽視し、ハリス候補はロシアが引き起こす核戦争のリスクを懸念していないようだと非難した。

「誰も意識しないが、彼(プーチン)には核兵器がある。彼にはそれを使用する権限がある」「最後には第三次世界大戦を引き起こし、核兵器の破壊力によって想像もできない惨状をもたらすだろう」

ウクライナ戦争を終わらせるため、トランプ氏はロシアと交渉する意思を彼の外交政策における決定的な特徴として位置付けてきた。ひいては、正式な大統領就任以前にウクライナとロシアの首脳会談を実現し、和平交渉を進展させる姿勢だ。

「私が大統領に選ばれた暁には、ウクライナとロシアの双方にアプローチし、同じテーブルに座ってもらう」

エポック・タイムズに寄せられたコメントでトランプ氏は「私だけがこの戦争を終わらせられる」と語り、ウクライナとロシア双方を交渉のテーブルにつかせる意思があるのは自分だけだと主張した。

「この戦争は始まるべきではなかった」「ハリスとバイデンは現在なすすべがなく、事態の収拾もつかない」とトランプ氏は述べた。

トランプ氏の対ウクライナ政策を形作るもう一つの要素は、ロシアの弱体化を試みるあまり、対中国共産党政策において用いるべきアメリカのリソースを枯渇させていることに対する懸念だ。

トランプ政権時ホワイトハウス国家安全保障会議首席補佐官も務めたアレクサンダー・グレイ元大統領次席補佐官(2019〜2021)は、さらなる国家安全保障上の利益をもたらす上でウクライナ戦争の早期終結は極めて重要だというのがトランプ氏の考えだと話した。

「ロシアとウクライナの戦争はアメリカの利益に反しており、中国共産党とグローバルに対峙するための力を削いでいるとトランプ氏は捉えている」

トランプ氏と並んで会場入りするゼレンスキー大統領(Alex Kent/Getty Images)

「アメリカの強みをもってしてのみ、米国の利益にかなう形での紛争解決が保証される」とグレイ氏は語った。

そのためグレイ氏によれば、トランプ氏の政策は代理戦争を通じて敵対国の国力を削るようなものではなく、米国が持つ抑止力とエネルギー自給率の強化を通じて国際秩序の維持を目指すものだ。

ただし、第二次トランプ政権においてウクライナ問題の解決は容易ではない。

紛争が相互につながり合う今の世界情勢において、特に、ロシア、中国、イランの関係を考えた場合、ウクライナの将来設計に対する交渉プロセスははるかに複雑なものとなる、とケスラー氏は指摘する。

「交渉の焦点は、戦時体制の状態よりも、外交関係において持続可能な新しい規範をつくることに置かれるかもしれない」

「新トランプ政権は、しかし依然として対ウクライナ支援継続の必要性に直面するだろう。現段階では、それ以上に迅速な平和の実現が困難だからだ」

和平の実現を左右する重要なファクターは、ロシアが方向転換するか否かである。プーチン政権において拡大する中国への依存およびヨーロッパの規範的国際関係に反する「ユーラシア主義」の堅持は、和平交渉の難易度を跳ね上げる。

ケスラー氏は、「プーチン大統領にとって、機が熟せば、むしろ欧米との間で長期的な和平合意を結ぶメリットが増えることもある。しかし、プーチン氏は一方で地政学的な板挟み状態に置かれている」と述べた。

エポックタイムズ特派員。専門は安全保障と軍事。ノリッジ大学で軍事史の修士号を取得。