トランプ氏主張の関税 イエレン氏は「米国の競争力低下を招く」と警鐘

2024/10/23
更新: 2024/10/23

イエレン米財務長官は関税は国内価格の上昇につながり、米国企業の輸出競争力を低下させるとの認識を示した。10月22日にワシントンで開催された国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会で、アメリカの経済成長を強調し、「アメリカと世界を悪化させる」として国際的な孤立主義を強く批判した。

IMFは同日、世界経済見通しを発表し、米国経済の成長見通しを上方修正した。エコノミストの予測によれば、米国経済は2024年に2.8%成長し、2025年には2.2%成長する見通しだ。アメリカ国内の消費者需要が堅調なため、成長予測は7月の見通しから上方修正した。

イエレン氏は発言の中で、孤立主義政策を批判した。「初日から孤立主義を拒否し、世界経済をリードすることで、世界中の経済を支え、アメリカと世界に利益をもたらしてきた」と述べた。

関税により「国内価格が上昇し、アメリカの輸出競争力は低下する」とし、関税が輸出産業と消費者に打撃を与える「誤ったアプローチ」だと指摘した。

イエレン氏はさらに、「アメリカのマクロ経済の好調、堅実な資本市場、法の支配により、米ドルが引き続き世界の主要な準備通貨であり続けると信じている」と説明し、「近い将来、ドルに代わる通貨が出現するとは思えない。ドルの地位については自信がある」と語った。

過去25年でドルの外貨準備シェアは減少したものの、IMFの公式外貨準備高の通貨構成(COFER)データによれば、ドルは依然として世界の準備金の58%を占め、優勢を保っている。

財政赤字削減の必要性も認める

イエレン氏は、連邦政府が今後数年間で財政赤字削減に取り組む必要があると認めた。また、実質(インフレ調整後)ネット利払いが経済全体の2%を超えないようにすることが重要だと強調した。

財務省が発表した2024会計年度のデータによれば、利払いのGDP比は1992年以来初めて3%を超えた。

連邦政府は、義務的支出の増加と利払いコストの上昇により、2024年度の予算赤字が1兆8千億ドルを超えたと発表した。総利払い費用(公的債務への支払いおよび政府間支払いを含む)は1兆1300億ドルに達し、純利払い費用(利息収入を差し引いた額)は8820億ドルだった。

議会予算局(CBO)とホワイトハウスは、今後数年間で連邦政府は累積で約13兆ドルの利払いコストを計上すると見込んでいる。

関税をめぐる議論

共和党の大統領候補であるトランプ前大統領は、全ての輸入品に10%の基本関税、中国からの輸入品には60%の関税を導入する計画を発表した。

先週、シカゴ経済クラブで講演した際、メキシコから輸入した自動車に「史上最高の関税を導入する」と宣言した。

「私にとって、辞書で最も美しい言葉は『関税』だ。これが私の好きな言葉であり、関税にはもっとPRが必要だ」とトランプ氏は語った。

「もし私が次期大統領になったら、100%、200%、2000%の関税をかける。彼らはアメリカで1台も車を売ることができなくなるだろう」

対立候補であるハリス副大統領はこれを「アメリカ国民に対する消費税」に例えた。

しかし、ハリス氏が再三トランプ氏の立場を非難する一方で、現政権はトランプ時代の関税を維持し、さらに追加の関税も課している。

「ハリス政権に大きな方針変更は期待していない」と、ソーンバーグ・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネージャー、イヴ・ランド氏は述べた。

共和・民主両党政権が関税を重視

トランプ政権とバイデン政権は共に、中国が補助金を利用して過剰生産をアメリカ市場に投入しているとし、国内の製造業を守るために関税を用いてきた。関税がなければ、アメリカの市場シェアや雇用は、中国製品の低価格に抵抗できず減少し続けるというのが両政権の共通認識だ。

ワシントンのシンクタンク、CATO研究所が8月に実施した世論調査によると、共和党・民主党の支持者は自党が課す関税を支持するが、相手党の関税には反対する傾向があることが分かった。

ホワイトハウスは9月、中国製品に対する関税の引き上げを最終決定し、 EVに100%、太陽光パネルに50%の関税を課すと発表した。

また、アルミニウムと重要鉱物、EVバッテリー、マスク、船舶用クレーンに対する関税を25%に引き上げる予定。

キャサリン・タイ米通商代表は9月の声明で「これらの関税引き上げは、アメリカの労働者や企業に悪影響を与え続ける中国の有害な政策や慣行を標的にしている」と述べた。

タイ氏は今年春、記者会見で「関税が価格を上昇させるという考えは「ほぼ誤りであることが証明された」と語った。

国際貿易委員会(ITC)は2023年3月、2018~21年にかけて実施された関税について「アメリカの輸入業者がほぼ全てのコストを負担した」と結論付けた。調査では、関税が1%上昇すると国内物価も約1%上がるとされる。

関税の歴史と役割

歴代政権は長年にわたり関税を利用してきた。

2002年にはブッシュ元大統領が輸入鉄鋼に、2009年にはオバマ元大統領が中国製タイヤに35%の懲罰関税を課した。

政府にとって、関税の役割は主に3つある。

1つ目は、鉄鋼業にせよ、製造業にせよ、国内の産業を守ることが目的だ。貿易関税を支持する側はしばしば、中国などが自国の産業に補助金を出し、より安価な製品をアメリカに投げ売りするという不公正な貿易慣行を行っていると非難している。

2つ目は、貿易の歪みを是正すること。例えば、反ダンピング関税は、輸出国が自国市場よりも安く製品を売る場合に適用される。

アメリカ・ファースト政策研究所の経済学者たちは、外国の生産者はアメリカ企業と同じ関税を支払うべきだと主張している。

彼らは7月の報告書で「外国の生産者も、アメリカの生産者が海外で製品を販売する際と同じ関税を支払うべきだ」と指摘している。

3つ目は、関税が政府の収入源となりうることだ。1913年に所得税が導入されるまで、関税は連邦政府の主要な財源だった。現在では国税収入の一部にすぎないが、それでもアメリカの年間の関税収入額は約3250億ドルだ。

アンドリュー・モランは10年以上にわたり、ビジネス、経済、金融について執筆。「The War on Cash.」の著者。