社会問題 容疑者の「遺書」に綴られた涙の告発

【動画あり】「社会報復事件」容疑者の遺書に綴られた恨みの告発=中国

2024/11/19
更新: 2024/11/20

【閲覧注意】本記事には、残虐な映像や画像があります。ご注意ください。

16日午後6時30分(現地時間)、江蘇省無錫市にある職業学校、無錫工芸職業技術学院で校外からやってきた男によって学生らが無差別に切りつけられる凶悪事件が発生した。

今年、卒業するはずだった男・徐は試験に不合格として卒業をさせなかった母校に押し入り、校内の学生に手当たり次第に刃物で襲いかかっていった。

警察によれば、徐〇金と一字伏せた状態で名前を公表された21歳の男は逮捕された。

犯行に至った動機は「学校を卒業できなかったことと実習中の職場に不満を持っていた」とされている。

死傷者数について、現地警察の発表では8人死亡、17人負傷となっているが、「10人以上亡くなった」「50人以上が切りつけられた」と指摘するネット情報も多く上がっている。

 

現場の様子(中国のネットより)

 

検閲

事件発生直後、ネットには現場の悲惨さを映した複数の動画が流出した。そこには刺されて負傷した人があちこちに横たわり、現場は血だらけだった。

しかし、事件後しばらくすると、関連情報や画像・動画は中国のネットで検閲に遭っている。

相次ぐ社会報復事件をうけ、ネット上では「ついに火薬庫に火がついた、もはや燎原の火(火勢が強く止められない)」といった不安な声も上がっている。

 

(現場の様子)

 

社会報復に至るまで

動機について実際にはどうだったのか。

ネット上に流れる投稿のなかには、一部、男と近い関係にあったものと見受けられるような投稿もあり、容疑者がいかにして追い詰められて社会報復をするようになったのかについて述べられている。
 

以下はその抄訳

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徐(容疑者)は学校でいじめられ、工場でも古参の職員からいじめられていた。

徐が働く工場では実習生の給料を学校に渡しているが、学校側は「実習費」という名目で給料を懐に入れ、徐ら実習生たちには渡さなかった。過去にも、この問題について陳情しようとする学生がいたが、陳情する路上で麻袋を被せられて脅されたこともあった。そのことから、学校の校長は暴力団とつながりがあるのではないかという噂も立っていた。

徐も「学校が実習生を搾取し、校長らが暴力団とつながっている」と現地教育部門や労働部門、暴力団取締り部門など関連機構に告発してきたが、これらの部門からたらいまわしにされ、問題は全く解決しなかった。徐の家族が省の陳情部門や紀律検査委員会宛て告発文書を送信しても、「自分たちで調査しろ」と、そっくりそのまま、被告側の学校へ送り返されていた。

そのような経緯もあり、告発者の徐は学校や工場からダブルの報復を受けていた。学校は彼が試験に合格しなかったと主張し、工場も彼をクビにした。最終的に絶望した徐は納得のいく説明を求めてナイフ持参で母校を訪れた。しかし、学校責任者はナイフを見ると、一目散に逃げだした。その後、徐はあのような無差別な報復に出た。

事件が起きた学校は省が運営する公立学校だが、 過去にも数々の事件が起きている。今年に入ってからも、給与や待遇の問題で傷害事件が4件起きており、昨年も学生が校長一家を待ち伏せる事件が起きた。また、同校には労働争議で罰金を科せられた記録が少なくとも3件ある。

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事件現場に置かれた被害者追悼の花束(NTD新唐人テレビより)

 

遺書

ネット上では、事件当日にSNSに投稿された「徐加金」と署名した容疑者の遺書とされる画像(携帯のスクリーンショット)が拡散されており、そこには「実習中の職場や学校への不満」がつづられていた。

「毎日16時間働いているのに給与をもらえない」

「残業代ももらえないし、保険にも加入させてくれない、弁償金ももらえない」

「具合が悪くて休んだら罰金を取られる、まる1か月間働いたのに休みは1日もない」

「工場は労働者を搾取している、現状をどうにか変えたくていろんな手を尽くしたが、解決できなかった」

「搾取されるくらいなら、死んだほうがましだ」

「自分の死で労働法の改善を進めたい」

「学校では多くの人がカンニングをしているのに、学校は試験に合格できなかったことを理由に自分に卒業証書をくれなかった。これは不公平だ。だから自分の手で決着をつけたい」

徐の遺書は「当雪崩的時候,沒有一片雪花是無辜的」という言葉からはじまった。

この言葉を直訳したら、雪崩の時、自分に責任を感じる雪の粒はないが、実際にはどの雪の粒にも責任はある。

 

事件当日にSNSに投稿された「徐加金」と署名した容疑者の遺書とされる画像(中国のネットより)

 

「労働法など、お飾りでしかない」

江蘇省の職業学校の教師・王さんはNTD新唐人テレビの取材に対し、学校の内情について明かした。

それによると、事件が起きた職業学校は3年制で卒業前は3年生は指定された工場でいわゆる「実習」をしなければならない。実習の時間は180日で、実習の時間を満たさなければ卒業できないという。

しかし、実際、そうした工場というのは学校の関連会社であることが多く、工場は学校にお金を渡し、また工場は学校と結託して学生を搾取する。

学生たちは1か月数百元(約1万円前後)とすずめの涙ほどの給料しかもらえず、1日16時間働かされる。休みもなく、宿舎もぼろぼろで、日も当たらない。学生たちの労働権は全くもって保護されていない。

無錫市の最低賃金は時給24元(約514円)だ、休日もなく1日16時間働けば、月給にしたら1万元以上(約21万円以上)もらえるはずだ。しかし、工場は数百元(1万円前後)しか払わない。

「労働法など、お飾りでしかない」と王さんは心から嘆いた。

 

事件が起きた職業学校(「無錫工芸職業技術学院」)前に献花する人(NTD新唐人テレビより)

 

「社会報復」なぜこうも続く? 怒りと恨みが積もり積もってやがては絶望へ

11日には珠海市で暴走車が体育館敷地内で市民を無差別に轢き殺す社会報復事件が起きたばかりだ。この事件では35人が死亡し、43人が負傷したと公式に報じられているが、被害者の数はもっと多い可能性がある。

珠海市の暴走車事件からわずか5日、またこうした無差別に市民を狙った社会報復事件が起きたことに、人々は衝撃と共に、「なぜ中国はこんな有り様になったのか」と考えざるを得ない。

中国共産党は自分たちの政権安定にしか関心がなく、庶民の苦しみなどまったく顧みない!」「どの事件の背後にも、特権社会がもたらす不公平と関係している」と多くの華人は憤慨する。

この事件について、オーストラリアの歴史学者・李元華氏は「中国共産党が統治する中国社会は正常な社会ではない。この事件の直接的な原因は中国社会のいたるところに存在する不公平、そして解決できるルートがないことだ」

「容疑者は自分の死で労働法の改善を進めたいと遺書に書いたように、彼は事件を起こして事件に対する世間の関心を喚起したかった。しかし、彼は罪のない人に暴力を振るうことを通じて社会の関心を集めようとした。しかしそれは間違っている。中国は悪の社会だ、容疑者も悪の方法を用いて自分の不満を発散させた」と評している。

 

NTD新唐人テレビの取材に応じる歴史学者・李元華氏(報道番組よりスクリーンショット)

 

最近立て続けに起きた社会報復事件について、米国在住の時事評論家、邢天行氏は、「どの凶悪事件の背後にも、恨みの蓄積過程がある。長きにわたる社会の不公平によって人は恨み、やがて人生に絶望する」

「これら事件の背後にある根本的な原因は中国共産党による無能で邪悪な統治、そして腐敗にある。腐敗がはびこる社会のなかで、中国人はただただ耐えるしかない。そのような劣悪な環境の下で、完全に歪んだ精神状態になり、社会に復讐するようになった」と指摘した。

 

NTD新唐人テレビの取材に応じる時事評論家、邢天行氏(報道番組よりスクリーンショット)
李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!