トランプ大統領が国防政策担当の国防次官に指名したエルブリッジ・コルビー氏は、3月4日に行われた上院承認公聴会で、米国の対外紛争への関与や各地域における戦略について厳しい質疑を受けた。
コルビー氏は過去20年間、政府内外で外交政策や国家安全保障の分野に携わり、米国の安全保障戦略の優先順位をより明確にすべきだと主張してきた。特に、欧州や中東よりも、共産主義国家である中国との戦略的競争に備えるべきだと主張している。
上院軍事委員会の公聴会で、コルビー氏は「米国はもはや軍事的に圧倒的な勢力ではなく、冷戦終結後のソ連崩壊時のような一極支配の中心にもない」と述べた。
また、2022年に発表された国家防衛戦略(NDS)についても触れ、「現在の国防戦略では、アメリカが同時に複数の戦争を遂行することは想定されていない」と指摘した。
「2022年の国家防衛戦略では、3つの戦争に対応できる軍事力は想定されていない。私の見解では、1つの戦争に対応でき、もう1つには部分的に対応できる程度の戦力しかない」
この発言を受け、上院議員たちは、党派を超えて質問を投げかけた。特に、コルビー氏が中国への対抗を最優先するために、米国が同盟国との関係を見直すのではないかという点に注目が集まった。
中東政策
トム・コットン上院議員はコルビー氏に対し、アメリカの中東政策にどのような影響を与えるのか、そしてイランの核兵器開発を容認する可能性があるのかについて質問した。
コットン議員は、コルビー氏の過去の発言を引用し、「イランの核武装を防ぐために、軍事力を行使することは、核武装そのものよりも深刻な結果を招く」という見解を示していたことを指摘した。
「この考えは、トランプ大統領の政策とは相容れない」
さらに、アメリカが単独で、あるいはイスラエルなどの同盟国と協力して、イランを攻撃する可能性について、トランプ大統領に助言する意向があるのかを問いただした。
これに対し、コルビー氏は「具体的な決定については、大統領の判断を待つべきだが、そのような議論は当然行うべきだ」と答えた。
コルビー氏の承認には、共和党内でも慎重な意見があり、特にコットン議員の影響力が大きいと見られている。
コルビー氏は、過去のイランに関する発言が誤解を招いた可能性があると認め、「軍事力行使について、安易または軽率な考えを持つべきではないという趣旨で発言した」と述べた。
また、核武装したイランが、アメリカにとって深刻な脅威となるという認識には同意すると述べ、トランプ政権は、軍事力の維持を重要視しつつ、軍事介入のリスクを慎重に評価すべきだと考えていると説明した。
ヨーロッパ戦略
コルビー氏の「中国との対立への備えを最優先すべき」との主張は、ヨーロッパ戦略、とりわけロシア・ウクライナ戦争が続く中で、米国の対応についても議論を呼んだ。
上院軍事委員会の筆頭民主党議員であるジャック・リード氏は、トランプ氏が最近ゼレンスキー大統領と会談したことや、ウクライナへの軍事支援を停止する決定を下したことに失望を表明した。
その後の質疑応答で、リード議員はさらに踏み込み、トランプ氏の対ウクライナ政策が、米国のヨーロッパの同盟国やパートナーに不安を与えていると主張した。

コルビー氏は、ウクライナとロシアの間の和平交渉に向けたトランプ氏の最近の取り組みを擁護した。また、NATO加盟国に防衛費の増額を求めるトランプ氏の方針を支持すると述べた。
「NATOは非常に成功した同盟だが、それを維持するには、トランプ大統領が示している方向へ進む必要がある」
また、NATOのヨーロッパ加盟国が、より多くの防衛責任を担うべきだと強調し、現在のNATOは、冷戦時代の設計とは異なり、アメリカの負担が大きすぎると指摘した。
「ヨーロッパのNATO加盟国が、もっと責任を負うべきだというトランプ大統領の主張は、むしろNATOが冷戦期に設計された本来の形に近いと思う」と述べた。
審議中、アンガス・キング議員らは、コルビー氏に対し、ウクライナ戦争が、ロシアの侵略によるものだと明確に認めるよう求めた。
しかし、コルビー氏は「トランプ大統領がウクライナとロシアの和平交渉を進めている最中なので、それを邪魔したくない」とし、発言を控えた。
インド太平洋の防衛
3月5日の上院公聴会で、ジャック・リード上院議員は、ウクライナ紛争の結果が、インド太平洋地域における中国の行動に影響を与えると指摘した。
リード議員は、ビル・バーンズ元CIA長官の発言を引用し、「ウクライナへの支援を放棄すれば、中国はアメリカを頼りにならない国と見なし、より攻撃的な行動を取る可能性が高まる」と述べた。
エルブリッジ・コルビー氏は、ロシアがウクライナで成功すれば、中国がインド太平洋地域でより強硬な行動に出る可能性があることは認めるとしながらも、米国には「戦うべき場所を選ぶ必要がある」との考えを示した。
「我々はアジア地域での軍事能力を確保し、台湾を防衛できる態勢を整えなければならない。それも、アメリカ国民が受け入れられるコストとリスクの範囲内であるべきだ」
また、コットン上院議員は、コルビー氏が過去に「アメリカは台湾に対して明確な安全保障の保証を与えるべきだ」と主張していたことに触れた。最近では、「台湾は、アメリカにとって非常に重要だが、米国の存亡に関わる問題ではない」と発言していることを取り上げた。
これに対し、コルビー氏「私は一貫して、台湾はアメリカにとって極めて重要だと述べてきた。しかし、アメリカの存続に関わる問題とは言えない。しかし、中国の地域覇権を防ぐことは、アメリカの重要な国益の一つだ」と述べた。

また、アメリカが台湾防衛に積極的に関与するためには、台湾自身が軍事支出を増やすべきだと主張した。
「アメリカの兵士が犠牲を払うのであれば、同盟国も相応の責任を負うべきだ。台湾が十分な防衛投資を行わないなら、アメリカ国民にとって不公平だ」
コルビー氏はコットン議員に対し、台湾の防衛力強化が中国の侵略を抑止し、アメリカがより効果的に対応するための時間を確保することにつながると指摘した。
軍事力の拡充と資源配分の最適化
コルビー氏は、米国の戦略的計画を検討する際に、資源の優先順位を決めなければならない状況を好ましく思っていないが、軍の能力を拡大するには時間がかかるため、現在のような厳しい資源配分の決定が、不要になるまでの道のりは長いと指摘した。
「米国のシステムの一部には、この現実を認識する意識があると感じる。しかし、その認識が実際の行動に反映されていないのが現状だ」
「そして私が恐れているのは、現実的な計画がなければ、最悪の事態が起こり、戦争に敗北するなど最悪の結果に陥る可能性があるということだ」
コルビー氏の戦略では、ヨーロッパにおける同盟国がより多くの負担を担うべきだと考えられているが、長期的には米国の軍事産業基盤を強化し、複数の地域で必要なレベルの軍事力を確保できるようにすることが最優先課題だとした。
同氏は、政府効率化省の取り組みや、それを支持する議会の議員たちの動きを評価し、政府の無駄を削減し、納税者の資金を有効に活用する方法を模索することの重要性を強調した。
現在のアメリカの防備費について、「これだけの予算を投じているのだから、より良い成果を得るべきだ」と語った。
コルビー氏は、承認されれば、米国の軍事産業基盤を活用し、より良い成果を引き出すことが自身の責務の一つになると述べた。ただし、武器調達プロセスを改善するには、国防総省の調達専門家と連携し、具体的な方法を模索する必要があると強調した。

また、既存のミニットマンIII大陸間弾道ミサイルの後継として計画されているものの、コスト超過が課題となっているセンチネル大陸間弾道ミサイル計画について、最善の進め方を助言することを約束した。
さらに、米国のミサイル防衛システムの刷新を目指すトランプ大統領の大統領令を、全面的に支持する考えを示した。
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