米国の保守政治活動会議(CPAC)のマット・シュラップ議長は、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と今年1月に会談した際、尹大統領が2022年の大統領選挙について「華為(ファーウェイ)が実質的に韓国の選挙を運営し、僅差で勝利した」と語ったことを明らかにした。
3月1日、韓国の元国会議員・閔庚旭(ミン・ギョンウク)氏は、自身のYouTubeチャンネルでシュラップ氏の発言を収めた動画を公開した。この動画は、2月19日(現地時間)、2025年のCPAC開催を翌日に控えた夕食会の席で撮影されたものだ。
この場で閔氏は、シュラップ氏に対し、尹大統領が弾劾を免れるための支援を求めた。尹大統領は昨年12月3日に戒厳令を発動し、その後、12月14日に韓国国会で弾劾訴追案が可決された。3月7日現在、韓国のソウル中央地方裁判所は尹大統領を釈放すると決めた。
シュラップ氏「尹大統領は『ファーウェイだ』と明言」
シュラップ氏は当時のやりとりについて、「韓国を訪問した際、尹大統領に『今回の選挙は一体どういうことなのか?』と何度も直接尋ねた」と回顧した。
「(大統領選前)世論調査では尹大統領が大きくリードしていたが、最終的には僅か1%の差での勝利となった。何が起きたのか? 誰が実質的に韓国の選挙を運営していたのか?」と問いただしたところ、「尹大統領は『ファーウェイだ』と答えた」と明かした。
2022年3月10日に行われた韓国の第20代大統領選挙では、尹大統領と共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)候補の得票率差はわずか0.8%(約25万票)だった。これは韓国憲政史上、最も接戦となった大統領選挙の一つとされている。
シュラップ氏は2月26日、自身のXで、「ソウルで尹大統領と会い、中国共産党の技術が韓国の選挙に使用されたと聞いた。これは非常に憤るべきことだ」と投稿した。
韓国の与党「国民の力」の幹部は1月10日、韓国国内の複数メディアに対し、昨年12月14日の弾劾訴追案可決後、シュラップ氏が大統領府で尹大統領と秘密裏に会談し、戒厳令発動後の政治情勢について意見を交わしたことを認めた。
中共の選挙介入、弾劾審判で議論に
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、戒厳令を実施した理由について「国内に反国家勢力が存在する」と説明し、戒厳の目的の一つとして選挙不正の調査を挙げた。また、中国共産党(中共)のスパイ活動が韓国の国家安全保障に対する脅威にも言及した。
2月中旬、韓国憲法裁判所で行われた尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領弾劾裁判の第7回弁論では、中共による韓国への浸透と韓国選挙への介入問題が焦点となった。
審判で、尹大統領の弁護士である車基煥(チャ・ギファン)氏は、韓国国家安保室長の申源湜(シン・ウォンシク)氏に対し、中共による韓国選挙への干渉について質問したが、申氏は明確な回答を避けた。
質問の一つは、「「中国(中共)が企業、華僑、中国人留学生を通じて親中派の政治家に政治資金を提供したり、支持を広げる世論を形成したりするほか、選挙で対立候補に関する偽ニュースを流布するなど、さまざまな手法で韓国の政治に介入している事例があることをご存じですか?」というものだった。
中共による外国選挙干渉、世界的に問題視
中共の外国選挙干渉は世界各国で報告されている。スウェーデン国家中国センター(NKK)が昨年6月に発表した報告書「中国(中共)による外国選挙干渉:その世界的影響の概要」によると、冷戦後、中共は各国の民主選挙に影響を及ぼしてきた。
その手法には、
- 政治献金
- 統一戦線工作(親中派勢力の拡大)
- 脅迫や威嚇
- メディアやSNSを利用した情報操作・フェイクニュースの拡散
- サイバー攻撃
などがある。特に中国人移民が多い国では、こうした干渉が顕著に見られると指摘されている。
また、台湾が最も重要な標的であり、カナダ、米国、オーストラリアなども中共の影響を受けていることが確認されている。他にも、韓国、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、フィリピンなどが中共の選挙干渉の対象になっているという。
報告書は「証拠が十分でない事例もあり、実際の干渉は記録されている以上に広範囲に及んでいる可能性が高い」と警告している。
韓国で発覚した中共の世論操作
韓国国会選挙を控えた2023年11月下旬、韓国国家情報院は、中共が韓国内で世論誘導を行っていたことを突き止めた。
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具体的には、中国の「海売科技(Haimai)」と「海訊社(Haixun)」というプロパガンダ会社が、韓国のメディアになりすまして38の偽サイトを開設し、フェイクニュースを拡散していたことが判明した。
国家情報院は、 「これらのサイトは親中・反米のプロパガンダを展開し、悪意を持って韓国の世論を誘導していた」と指摘している。
さらに、中国のネット工作員が韓国の主要ニュースサイトでも活発に活動していることが報告された。2023年末の報告書では、中共のネット工作員約50のアカウントが、3か月間で3万件以上のコメントを投稿し、韓国国内の世論を分断し、米韓同盟を批判する書き込みを拡散していた。
韓国選管委への中国共産党の浸透、弾劾審判で議論に
第7回弁論では、中共が韓国の中央選挙管理委員会(選管委)に浸透している可能性も注目された。
証人として出廷した選管委の事務総長・金容彬(キム・ヨンビン)氏は、2022年の大統領選挙と2023年の国会議員選挙で、中国籍の職員を採用していたことを認めた。
車弁護士は、2020年6月10日付の韓国語大紀元の記事を引用し、選管委が2017年に公式YouTubeチャンネルで公開した「民主主義とリーダーシップ」をテーマにした10本の動画のうち、6本が中共の指導者である王滬寧(ワン・フーニン)、鄧小平(トウ・ショウヘイ)、周恩来(シュウ・オンライ)を称賛する内容だったと指摘した。
車基煥弁護士は、「当時、多くの世論から批判が上がった。自由民主主義国家の選挙管理を担う選管委が、なぜ中国共産党の指導者を取り上げた動画を公開したのか。特に、台湾(中華民国)などで世論操作や選挙干渉を行っているとされる王滬寧を、最初と2本目の動画に登場させたのは不可解だ」と指摘した。
尹大統領側、選挙機関A-WEBの調査を憲法裁に申請
また、尹大統領側は弾劾審判の第3回弁論を前に、憲法裁判所に対し「世界選挙管理機関協議会(A-WEB)」などの選挙関連機関に関する事実調査を申請した。
A-WEBは、韓国の選管委が提唱し、2013年に主導して設立した国際組織で、100か国以上の加盟国の多くが発展途上国で構成されている。
韓国の保守派は、A-WEBを選挙不正の温床と見なし、同機関を通じて輸出される韓国製の選挙機器が世界各国で不正選挙を引き起こしていると主張している。また、A-WEBは中国共産党が「一帯一路」構想の一環として構築した選挙不正ネットワークの一部であり、民主化を名目に各国政府に介入する国際機関だと批判。同機関は選管委が設立した国際民間機関とされているが、実際には中共の影響を受けていると指摘している。
韓国製の選挙機器、輸出先で不正選挙が発生
韓国選管委は、A-WEBを通じて民主化を進めている国々に対し、光学式投票集計機(OCR開票機)などの韓国製選挙機器を提供・輸出してきた。しかし、これらの機器を導入したイラク、コンゴ民主共和国、エルサルバドル、ボリビア、南アフリカ、ベラルーシ、キルギスなどでは選挙不正が報告されている。

特に、2018年、コンゴでは市民団体が韓国選管委に抗議した。同国の選挙で不正が発生したことを受け、韓国製の選挙機器がどのように関与したのかについて説明を求めた。
韓国の通信企業、華為の5G設備を使用 事前投票通信網も担当
中国共産党(中共)と関係が深いとされる華為(ファーウェイ)は、安全保障上の懸念から各国で規制が強化されている。米国は2018年に政府機関での華為製品の使用を禁止し、5Gインフラからの排除を推進。カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本なども同様の措置を取った。
韓国の主要通信3社のうち、SKテレコムとKTは5G網でファーウェイ機器を排除したが、LG U+は米政府から使用中止を求められたにもかかわらず、ソウルなどで使い続けている。
2020年の韓国第21回国会議員選挙を前に、選管委は事前投票用通信網の構築をLG U+に発注。選挙後、「ファーウェイの通信設備が事前投票の改ざんに使われた可能性がある」との疑惑が浮上したが、選管委とLG U+は「ファーウェイの設備は使用していない」と否定。それでも、疑念は払拭されていない。
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