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トランプ政権の財政改革 DOGEのコスト削減と経済成長の狭間で

2025/03/08
更新: 2025/03/08

論評

トランプ政権は発足当初から、大胆な政策目標を掲げて政権についた。選挙活動中、米南部国境の移民危機の解決、ウクライナ戦争の終結、暗号資産(仮想通貨)の規制緩和、そして「ディープ・ステート」と呼ばれる官僚組織の解体や、政府機関・軍隊におけるウォーク主義の影響を排除することを公約としていた。

さらに、国際貿易条件の改善、製造業の国内回帰、国内エネルギー生産の拡大を通じて、アメリカ経済の再建をすると約束した。また、2兆ドルを超える財政赤字を削減し、36.5兆ドルに膨れ上がった国家債務の縮小にも取り組むとしている。

近年、アメリカ政府の過剰な財政支出は、経済に深刻な悪影響を及ぼしてきた。過度の規制負担や煩雑な行政手続きが企業の成長を阻み、イノベーションを妨げ、企業の海外流出を招き、中小企業にほぼ耐えられないほどのコストを課した。これにより民間の雇用の成長が妨げられる一方で、政府の雇用は増えたことで『問題はない』という錯覚が生まれた。しかし、政府の雇用は実質的な経済価値を生み出さないため、根本的な解決にはならなかった。

信じられないほど複雑な税制と金融コンプライアンスの規定により、納税者が知らぬ間に曖昧な規則に違反し、有罪とされる可能性がある。税金は、国民のためのサービスや子供たちの未来への投資ではなく、債務の返済に浪費している。国家債務は生産性と経済成長の足かせとなっている。

昨年、アメリカ政府の歳出は約6.7兆ドルに達したが、歳入は4.4兆ドル程度にとどまり、2.3兆ドルの赤字が発生した。この赤字は新たな借入によって補填されるしかなかった。過去10年間で国家債務は2倍に膨れ上がった。現在の債務危機は国家的な緊急事態となっている。今すぐ抜本的な対策を講じなければ、財政破綻は避けられない状況だ。意味のある債務削減の第一歩は、毎年数兆ドルを積み上げている財政赤字を解消することだ。

財政赤字を削減するためには、関税の引き上げ、国内エネルギー生産の活性化、生産性の向上といった新たな歳入確保策が必要だが、これには時間がかかる。そこでトランプ政権は、膨張する政府予算と慢性的な無駄遣いの削減に着手した。

政府効率化省(DOGE)は主要な政府機関の全面的な見直しを行い、不正、無駄、非効率性を排除するための政策を大統領に提言する役割を担っており、発足以来、ワシントンの既得権益層に衝撃を与えている。

アメリカ国際開発庁(USAID)などの政府機関は廃止される可能性があるともされている。すでに予算削減、人員の整理と組織のスリム化、不正や汚職、浪費の排除による財務の透明性向上といった改革が進められている。こうした取り組みにより、トランプ政権は財政の健全化と経済の再生を目指している。

財政赤字の削減は、国家債務抑制の第一歩となる。政府の肥大化を抑え、行政コストを大幅に削減することが、アメリカ経済の再建と持続的成長の促進につながると期待している。トランプ政権は、国家財政の立て直しと経済再生を掲げ、官僚機構の改革に着手しており、この取り組みが成功すれば、アメリカの財政健全化と経済成長の加速につながると見ている。

こうした改革は長期的には経済に大きな利益をもたらすが、短期的にはDOGEや新たに任命された各省庁の長による積極的なコスト削減策が、景気後退(リセッション)を引き起こす可能性が高い。これは不快で苦しいものかもしれないが、必要不可欠な第一歩である。重病の患者が、副作用を伴う強い薬を必要とするように、アメリカ経済が再び健全な状態に戻るには、強力な財政および運営の再編が必要だ。

景気後退は、通常の経済循環の一部として避けられないものだ。しかし、今回の景気後退は、通常の信用引き締めや需要低迷によるものではない。DOGEによる支出削減策が直接の原因ではない。2025年の景気後退の真の要因は、新政権に引き継がれた莫大な財政赤字にある。バイデン政権は、長期間にわたり、財源を持たないまま過剰な支出を続けてきた。そのため、新政権がこの「財政的な麻薬」の供給を断つことで、現実的な財政状況へと引き戻される過程で、景気後退の影響を受けるのは避けられない。

バイデン政権時代の経済成長を支えたのは民間投資ではなく、政府支出だった。しかし、政府支出は常に生産性の低い、もしくはマイナスの投資であり、一時的な経済的な豊かさを演出するものの、実際に恩恵を受けるのは政府と密接な関係を持つ者だけだ。私や他の人々が以前主張したように、2023年の時点で、民間セクターはすでに景気後退に陥っていた可能性がある。

現在、政府機関の人員削減、早期退職、組織再編、合併が実施され、政府雇用は縮小に向かっている。連邦政府機関は現在、採用を凍結している。州政府や地方自治体も、こうした流れに追随する可能性があるが、それを実行するには政治的な決断が必要であり、ワシントンからの支援が求められるだろう。

貿易は関税の影響を受けることになる。関税の影響は明白だが、その規模や影響範囲を正確に予測することは難しい。関税政策がもたらす不確実性そのものが、経済活動や投資に冷や水を浴びせている。

インフレ率は3%を超えた水準にとどまり、今後もしばらく高止まりする見通しだ。輸入品に対する関税は、長期的にはアメリカの利益につながるものがあるものの、短期的には産業用品や消費財の価格を押し上げる可能性が高い。さらに、景気後退を抑えるために米連邦準備制度(FRB)が利下げを行えば、インフレが再燃するだろう。ミシガン大学が行った世帯調査によれば、長期的なインフレ期待は過去30年間で最も高い水準に達している。

こうした不確実性は、金融市場にも重くのしかかっている。株式市場や仮想通貨市場は最近不安定な動きを見せており、機関投資家の間では警戒感が広がっている。投資家は経済の強さに頼るのではなく、過去の政権が行ったように、トランプ政権が金利引き下げやその他の介入を通じて金融市場を救済するという「トランプ・プット」への期待にますます依存しているようだ。しかし、トランプ氏は財政・経済の再構築に断固として取り組む姿勢を崩しておらず、市場は今回、その期待を裏切られるかもしれない。

財政引き締めには代償が伴う。アメリカ経済は、今年後半に、財政引き締めによって景気後退が起こる可能性が高い。それでも、この流れを止めるべきではない。この過程を経ることで、国と経済はより強くなる。透明性と情報開示が、停滞した状況を打開する鍵となる。改革なくして再生なしだ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
マイケル・ウィルカーソンは、戦略アドバイザー、投資家、作家です。ウィルカーソン氏は、Stormwall AdvisorsおよびStormwall.comの創設者です。彼の最新の著書は「Why America Matters: The Case for a New Exceptionalism」(2022年)です。