ロシア・ウクライナ戦争が3年目に突入する中で、トランプ大統領の停戦要求が注目を集めている。ウクライナ軍の厳しい戦況、欧州の支援限界、そしてアメリカの政治経済事情が複雑に絡み合う中、停戦交渉の行方と今後の展開について、詳しく分析する。
ロシア・ウクライナ戦争は、三年目に突入し、最近の1か月間、アメリカのトランプ大統領が停戦問題に介入し、特にウクライナに大きな圧力をかけた結果、戦場の情勢に明らかな変化が見られた。
戦場の形勢が不利な中、ウクライナは30日間の停戦に同意し、アメリカは軍事支援を再開
著名な軍事チャンネルの司会者、周子定(しゅうしてい)氏は新唐人テレビの『菁英論壇』番組で、次のように述べた。3月11日、アメリカとウクライナの高官がサウジアラビアで重要な会談を行い、ウクライナは、ロシアとの間で30日間の停戦を実施することに同意した。この合意は初期段階であり、アメリカは、中断していたウクライナへの軍事支援と情報共有を再開した。また、双方は意向を確認し合い、30日間の短期停戦協定が空襲だけでなく、陸上でのすべての戦闘を完全に停止することに合意した。しかし、ロシアがこの協定に同意するか、またその実行可能性は不透明だ。
周子定氏によれば、ロシア・ウクライナ前線の状況は、ウクライナにとって非常に厳しいと言われており、ウクライナは、武器や弾薬が不足しており、アメリカの軍事支援停止によりさらに悪化していると言う。その結果、ロシア軍は最近クルスク攻撃を強化し、ウクライナ軍の防衛交代の隙を突いて、スジャ地域への退路を切断しようとしていると言う。
前線全体は膠着状態にある。最近、ウクライナ軍は、前線で5〜6の村を失い、特にスジャ地域が懸念されているそうだ。スジャにはウクライナ・スームへ通じる道路があり、現在この道路は、ロシア軍の北側と南側からの挟撃にさらされている。この地域は、約十数キロしかなく、道路はロシア軍の砲火圏内に、完全に入ってしまう。ロシア軍は、ウクライナの補給線を脅かしており、クルスク地域全体の情勢は、ウクライナにとって楽観的ではないと言われている。
ヨーロッパの軍事援助は、言葉だけでは実行力が不足し、アメリカの穴を埋めるのは難しい。
周子定氏は、ヨーロッパ諸国が過去に多くの動きを見せたが、総括は二点に集約されると述べた。一つは、話題性はあるが実質的な進展は少ないことであること、もう一つは、アメリカの穴を埋めるのが難しいということである。
まず第一点について、ヨーロッパ諸国は具体的な行動を取った。2月のミュンヘン安全保障会議後、フランスのマクロン大統領は、事態の深刻さを認識し、パリで緊急の二回目の首脳会議を開催した。この際の主旨は、「アメリカが安全保障の責任を果たさないなら、ヨーロッパがその役割を担う」というもので、ウクライナへの兵派遣も含まれていた。しかし、二回目の首脳会議後もヨーロッパ各国は「兵派遣なし」を明確に表明し、フランスとイギリスだけが3万人の兵力を何とか集めた程度だった。ただし、これらの兵力も平和協定締結後という条件付きであり、現時点では実現には程遠い状況である。
第二点として、ゼレンスキー大統領の訪米後、トランプ大統領との口論が発生した。その後、イギリスではスターマー首相が主催する首脳会議が開催され、スターマー首相の主導で約50億ドル規模の軍事援助案が成立した。ただし、具体的な交付時期は未定で、他の国は追随していない。
欧州の軍事支援の限界
最近、欧州連合(EU)のフォン・デア・ライエン委員長が8千億ユーロの国防計画を発表した。この計画では、1500億ユーロがEUから各加盟国への融資で、残りの6500億ユーロは、各国が4年間で国防予算をGDP比1.5%増加させる努力によるものである。つまり、強制力はなく各国の自主性に委ねられている。現状を考えると、6500億ユーロのうち1500億ユーロが実現すれば良い方である。また、この計画には、ウクライナ支援の具体的な方法が示されておらず、ウクライナが期待するのは時期尚早である。
周子定氏によれば、2023年初頭にEUはウクライナに100万発の砲弾を提供する計画を発表したが、年末までに提供されたのは50万発未満だった。一方、2024年には北朝鮮がロシアに600万から700万発の砲弾を援助しており、これは欧州の10倍に相当する。
このため、EUはこの分野でのさらなる取り組みが必要である。EUの国防支出計画は、長期的にはウクライナにとって助けになると考えられるが、現時点ではアメリカの支援不足を補うには至っていない。これが、ウクライナが安全保障問題で、最終的にアメリカとの協力を必要と認識している理由である。
テレビプロデューサーの李軍氏は、『菁英論壇』で、過去3年間に欧州諸国が、ウクライナへの軍事援助として発表した総額が約620億ユーロに達していると述べた。ゼレンスキー大統領も、多くの約束が履行されていないと指摘している。ロシアが攻勢を強化する中、ウクライナは大きな圧力を受けている。
マクロン仏大統領の「核による欧州保護計画」はまだ議論の段階であり、実行可能とは言えない。この提案には賛成する国と反対する国がある。核弾頭は、ロシアが約6千発、アメリカが約3700発を保有しており、それに対して、フランスは290発の核弾頭しか保有していない。フランスの核兵器で、アメリカの欧州保護を代替する主張は、現実的ではないと言える
現在、ロシア軍は自走砲5千両以上、牽引砲約8500門、多連装ロケット発射機約3千基を保有しており、これらは欧州諸国全体を合わせてもロシアには及ばない。
ロシア軍の兵力は約132万人、そのうち地上部隊は90万人で、今年中に200万人への増強を目指している。
一方、ウクライナ軍は約60万人規模である。フランス、ドイツ、イギリスなどの他国の兵力は約20万人程度である。各国は兵力不足に直面しており、ロシア・ウクライナ戦争への介入支援は困難であると言わざるを得ない。
李軍氏によれば、欧州諸国の現状を比較すると、トランプ大統領が国防予算の増加を求めた理由が明らかになる。
欧州は過去3年間でウクライナに約200億ドルの軍事援助を行った一方で、天然ガス購入のためロシアに2千億ドル以上を支払っている。
そのため、トランプ大統領は、最近のフォックスニュースのインタビューで、「欧州は左手でウクライナを支援し、右手でロシアを支援している」と述べた。
実際にウクライナを支援しているのはアメリカだけだという指摘もある。
トランプ大統領が停戦を急ぐ政治的・経済的背景
ベテランジャーナリストの郭君氏が『菁英論壇』で述べたところによると、アメリカとトランプ大統領にとって、ロシア・ウクライナ停戦は単なる平和の問題ではなく、より深い政治的・経済的理由がある。
その政治的理由は、アメリカが中国共産党を最大の脅威と認識したことに起因する。
したがって、リソースと力を集中させ、アメリカにとっての最大の脅威に対処することが、最優先の政策課題となっていると言う。
実際、台湾海峡と南シナ海の情勢は、非常に緊迫している。中国共産党は、戦争準備を急いでおり、大量の武器を部隊に配備し、軍隊は全面的に行動を起こす準備が整っている。
中国共産党にとって、ここ数年は千載一遇の機会かもしれない。アメリカ国内の分断や、アメリカと欧州主要同盟国との関係の亀裂、台湾内部の意見の相違など、このような機会は、数年後には失われる可能性がある。中国共産党が武力行使を考えているなら、今後1、2年が最適な時期となるだろう。
そのため、ここ数年は、非常に危険な時期である。アメリカの政治情勢は、共和党が措置を講じることで初めて安定している。もしトランプ大統領が、ホワイトハウスの支配権を4年後まで延長できれば、より安定するだろう。トランプ氏は、アメリカに有利な成果を急いで得たいと考えている。ロシア・ウクライナの迅速な停戦や欧州での平和実現は、トランプ政権にとって重要な政治的ニーズである。
しかし、停戦によって、アメリカの経済的負担が大幅に軽減されることがより重要である。毎年1千億ドル以上の支出は非常に大きな額である。いくつかの数字を見てみよう。まず、連邦政府の赤字である。昨年のアメリカの連邦赤字は1.8兆ドルで、これはカナダのGDPに相当し、世界第8位である。
2024年、アメリカの連邦政府支出は2.3兆ドル増加し、国債総額は35兆ドル、毎年の利息支払いは1.1兆ドルに達している。昨年の支出は6.8兆ドルで、そのうち1兆ドル以上が利息、収入は4.9兆ドル、赤字は1.8兆ドルだった。
経済において、政府の赤字率は重要な指標で、GDPに対する赤字の割合を示す。昨年のアメリカの赤字率は6.4%で、多くの専門家は7.5%を危険なラインと見なしている。このラインを超えると、アメリカ経済は下降スパイラルに陥り、大きな不況のリスクが高まる。これはアメリカが避けたい事態だ。
2024年度の財政年度の数字は、2023年10月から翌年9月までのものである。最新のデータによると、昨年10月から今年1月までの4か月間で、連邦政府の赤字は8400億ドルに急増した。
この数字を基にすると、年間の赤字は2.5兆ドルを超え、赤字率は7.5%の危険ラインを超え、8%を超える可能性もある。つまり、アメリカ経済は、今年後半に大きな問題に直面する可能性が高い。
そのため、トランプ氏が就任後に、最初に行うべきことは政府支出の削減である。イーロン・マスク氏は2兆ドルの削減を提案したが、この金額は非常に重要である。しかし、実際に連邦支出を削減するのは難しい。アメリカ政府の硬直的支出、例えば医療、社会福祉、社会保険、国債利息などは、連邦政府の総支出の70%以上を占める。それ以外の裁量的資金は約27%に過ぎず、硬直的支出だけで5兆ドル以上あり、自由に操作できる資金は2兆ドル未満である。
郭君氏は、毎年1千億ドルのウクライナへの軍事援助は、非常に大きな金額だと述べている。トランプ氏は当主としてすべてを計算し、ウクライナへの援助も考慮しなければならない。もしアメリカ経済が大不況に陥れば、問題はさらに深刻になるだろう。
ロシアは30日間の停戦を受け入れるか
周子定氏は、ウクライナ戦争が最終的に停戦に向かい、和平交渉が進むことは確実だと述べている。この大きな方向性のもと、アメリカはウクライナへの支援を続けるべきだ。ウクライナは、ロシアに対して弱者であり、その力を弱めることでロシアが機会を得るからだ。
最近、ロシアがクルスクで攻撃を仕掛けたのはこのためで、相手の弱点を利用して戦場で利益を得ようとしている。外交交渉は戦争の延長であり、戦場の状況が、最終的な結果に大きく影響することは明らかだ。
現在、停戦協定のボールはロシアに投げられている。ウクライナとアメリカは30日間の一時停戦協定に合意した。ロシアには二つの選択肢がある。一つ目は、トランプ大統領の面子を立てて同意することだが、可能性は低い。二つ目は、プーチン氏が表面上同意しつつ、1週間から10日程度の時間を稼ぎ、クルスク戦場で自国の利益を最大化しようとすることだ。クルスクはプーチン氏やロシアにとって自国の領土であり、非常に扱いが難しい問題だ。
周子定氏は、ウクライナが持ちこたえれば、この期限は無限に延長されることはないと述べている。さもなければ、ロシアはトランプ氏の怒りを買うことになる。ある程度まで達すれば、ロシアはこの停戦協定に一時的に同意する可能性がある。
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