ロイター通信の調査によると、トランプ政権の最近の政策変更にもかかわらず、日本企業の4分の3以上が職場の多様性の推進から手を引く予定はないことがわかった。調査回答者の約 77% が多様性の取り組みを推進する予定であると回答し、3% が DEI (多様性・公平性・包括性)手順を見直し中または見直しを検討中、残りの20% は、そもそも多様性を推進する計画がなかったと回答している。
日本においては、経済産業省は、企業が多様な人材を活用し、その能力を最大限に発揮できる環境を整えることで、企業価値の創造を目指す「ダイバーシティ経営」を推進し、DEIポリシーを重要視している。人口減少と高齢化で慢性的な労働力不足に悩まされる中、多様性と包摂性を促進することで従業員を引きつけ、維持するために不可欠だとの見方もあがる。
アメリカはDEIポリシーが後退
一方でアメリカでは、多様性を推進するDEIポリシーをめぐってトランプ政権が連邦政府と民間部門全体のDEIプログラムの解体を目的としたいくつかの大統領令を発令している。
トランプ政権はDEIプログラムが人種や性別に基づく優遇措置を含んでいると問題視しており、雇用や教育の場での公平性を確保するため、個人の能力や実績に基づく評価が重要だと強調。政権が発足してから矢継ぎ早に、同政権は連邦政府機関に対してDEI関連部門の廃止やウェブサイトの閉鎖、担当職員の有給休暇扱いなど具体的な措置を講じた。
民間部門におけるDEI関連の取り組みも影響を受けた。DEIプログラムが人種や性別に基づく優遇措置を含み、能力主義に反するとする批判に応える形で実施され、政権は、雇用や教育の場での公平性を確保するために個人の能力や実績に基づく評価が重要だと強調している。
DEIポリシーをめぐっては、数年前からからすでに撤退する企業が現れており、世界最大のマネーマネージャーであるブラックロック、その後ブラックロックに次ぐ規模を誇るヴァンガードも立て続けに撤退の発表をした。
DEIポリシーはESG(環境、社会、ガバナンス)の社会における具体的な施策の一部となっているが、同社のCEOラリーフィンク氏は、ESGポリシーがあまりに政治的でクライアントの経済的利益を促進しないとし「ESGという言葉は完全に武器化されているため、もう使用しない」と語った。
こうした中で、DEIプログラムの縮小や中止を発表した企業としては、メタ、ウォルマート、フォード、マクドナルド、ハーレーダビッドソン、ジョンディア、ローズ、トヨタなどが挙げられる。
DEIポリシーを推進するため訴訟に直面するケースも出てきている。ロイター通信によると、グローバルIT企業IBMはより多様な労働力を構築するという目標を推進するため、白人男性コンサルタントを強制的に解雇したとして訴えられた。26日、IBM側が求めていた訴訟の却下をミシガン州の連邦裁判所判事は拒否した。
またLGBT(性的少数者)を推進する商品を販売したとして不買運動に発展したケースもでている。米小売大手チェーンのターゲット(Target)が全米の店舗でLGBT(性的少数者)を推進する商品を販売した、またバドライト(Bud Light)が広告宣伝にトランスジェンダーのインフルエンサーを起用したことで不買運動が広がった。
アメリカ企業内でのDEI(多様性・公平性・包括性)への取り組みは、大きな転換期を迎えている。2025年のAppleの年次株主総会では、これまで主導してきたESGやDEIに賛成する提案は一つもなく、代わりに保守派や反ESGグループからの提案のみが議題に上がった。CEOのティム・クック氏も「DEIへの取り組みの変更が必要」と認めたという。今後、企業はより政治的中立を求める株主の声に直面することになる。
ESGの強い欧州でも退行の兆し
ESGへの支持が強い欧州においても、イギリスの金融行動監視機構(FCA)とイングランド銀行の監督機関である健全性規制機構(PRA)は、企業への負担が大きいことを理由に、新たな規制導入を見送る方針を決定した。イギリスの金融業界団体UKファイナンスは、企業が「多様性推進に対する反発の高まりに直面し、対応を求められていると指摘した」と指摘している。
アリストテレス公共政策財団のシニアフェロー、デイビッド・ミラード・ハスケル氏は「『人工的に多様性を増やすことが企業の利益を向上させる』という、世界最大の経営コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーが委託した一連の研究によって事実として受け入れられるようになったが、昨年、その研究のポジティブな結果は厳密な査読を受け、再現することができなかったとし、マッキンゼーの研究が『人種・民族の多様性が財務パフォーマンスを向上させるという見解を支持する根拠として信頼すべきではない』と結論づけられた」と指摘している。
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