アメリカのトランプ政権が関税を引き上げたことを受け、中国は報復措置を強化した。習近平は国内の権力基盤が不安定であるため、妥協を許容できない状況に陥っている。
アメリカ政府が2日、全面的な相互関税措置を発表し、瞬く間に世界経済に激震が走った。今週に入り、多くの国が慎重な態度を取る中で、中国共産党(中共)だけは例外であった。中共は即座に強硬な対応を打ち出し、アメリカ企業の一部に制裁を科すと同時に、アメリカ製品への関税を34%まで引き上げた。
アメリカ側も報復措置で応じた。トランプ大統領は中国に対し125%の関税を課すと宣言し、この措置が実行されれば米中間の貿易関係は断絶の危機に直面することになる。では、中共がこれほどまでに強硬な態度を取る理由とは何か。今後も米中の経済関係は続くのか。世界GDPで1位と2位を占める大国による経済戦争は、世界経済にどのような影響を及ぼすのか。
米中貿易戦争中 中共が報復行動を選んだ理由とは?
テレビプロデューサーの李軍氏は、新唐人テレビ『菁英論壇』において次のように述べた。「4月2日にトランプ大統領が相互関税を発表した翌日、アメリカの株式市場は急落した。中共が報復関税を打ち出した4月4日には、さらに下落幅が拡大し、ダウ平均は5.5%、S&P500指数は5.97%、ナスダック指数は5.82%の下落を記録した。アメリカ市場には極めて強い売り圧力がかかっている。ヨーロッパおよびアジアの市場も同様に下落し、日本市場は10%以上、韓国市場は8%から10%の下落幅を見せた。ヨーロッパ市場でも、この数日で約10%の下落が確認されている。一方、中国のA株、深セン市場、香港市場は4月3日の時点で比較的小幅な下落にとどまり、A株は0.59%、香港ハンセン指数は1.52%の下落にとどまった」
しかし、中共が報復関税を発表した週の初めに状況は一変した。最も大きな影響を受けたのは香港市場であり、週明けの1日には13.2%もの急落を記録し、3200ポイント以上の値下がりとなった。この下落幅は歴史的であり、取引額も過去最高に達した。中でもテクノロジー株の下落が顕著で、ハンセンテクノロジー指数は17.16%の下落を示した。アリババは18%、BYD(比亜迪)は約16%の下落率となった。また、4月4日にはA株と深セン市場も値を下げ、大きな反転を見せた。
この動向から、中国本土および香港の株式市場はトランプ氏による相互関税の発表には小幅な反応にとどまった一方で、中共による報復関税には極めて敏感に反応したことが明らかである。特に香港市場の動きがそれを裏付けている。このため、一部の分析では、市場が米中貿易戦争のエスカレーションを強く懸念しているとの見方が示されている。ここ数日間で、アメリカ市場は徐々に安定化し始め、中国市場も政府系ファンドの積極的な支援によって安定傾向を見せている。
李軍氏はさらにこう語った。「国内で輸出入に従事する業者たちへの取材によると、多くの企業が『米中貿易はすでに一時停止状態にある』と述べている。広東省や浙江省の多くの企業主は『アメリカからの注文が受けられない状況が続いているため、業務を停止する決断を下した』と語っている」
台湾のマクロ経済学者・呉嘉隆氏は、新唐人テレビ『菁英論壇』において以下のように分析した。「私の見解では、中共の反応はアメリカのシナリオ通りである。トランプ氏の動きも同様に計算されたものである。彼が1期目から貿易戦争を開始した時点で、アメリカは習近平の性格と立場を深く理解していた。トランプ氏は繰り返し習近平を刺激し、挑発的な姿勢で圧力をかけ続けた。『目には目を、歯には歯を』という構図の中で、中共はその挑発に応じたという構図が浮かび上がる」
トランプ政権の第1期目において、中国への関税目標は50%であったが、実際には25%にとどまった。この点については、後にポンペオ前国務長官が明言した。そして、今回のトランプ大統領の関税目標は明確に50%を超えている。最初に20%、次に34%へと段階的に引き上げた後、中共が強硬な報復措置を講じた瞬間に即座に反撃を行い、短期間で目標水準に達した。アメリカ側はこの結果に驚いていない。
中共が強硬姿勢を示す背景には、極めて重要な認識がある。中共はアメリカが中国との交渉意思を完全に失っていることを理解している。もはや希望を抱く余地はない。トランプ政権の第1期においては、アメリカと中共は頻繁に交渉を重ね、ワシントンや北京での協議が続いていた。しかし、第2期に入ると情勢は一変した。中共は交渉継続を期待していたが、アメリカは一切の協議を経ずに関税措置を発表した。この対応は異例であり、極めて異質である。
中共は交渉の準備を整え、条件提示と譲歩の戦略を描いていたが、トランプ氏はカナダやメキシコ、日本やEUとは接触しつつ、中共とは一切の対話を行っていない。中共の交渉チームや習近平自身が接触を望んでも、アメリカ側は応じていない。中共は心の中でその事実を理解していた。トランプ氏の行動は、交渉ではなく対立を前提としたものである。
評論家の呉嘉隆は、今回の関税を「アメリカによる中国経済への宣戦布告」と表現している。この政策は単なる通商措置ではなく、経済戦争そのものである。中共を主たる標的とし、高関税によって経済的圧力を加えている。加えて、中国製品の産地偽装に関与する東南アジアやアフリカ諸国も、同様に高関税の対象となっている。中共の立場に立てば、この政策が明確に自国を狙ったものであることは容易に理解できる。
トランプ氏は同盟国に対しても基準関税10%を課しているが、これは象徴的な措置に過ぎず、本質は中共に対する全面的な経済戦争である。中共もこの点を正確に認識している。
トランプ関税による中共包囲網と台湾保護 日本の役割向上
呉嘉隆氏は『菁英論壇』において、米中関係の悪化が日本の役割を拡大させると述べた。アメリカは今後、日本をより重要なパートナーとして位置づけ、責任を分担させる方針を強める。特に日本の軍事産業はすでに発展の途上にあり、今後さらに役割を拡大させていく。アメリカは日本に対し、防衛責任の分担を強く求めるようになるであろう。
台湾には特異な地政学的状況がある。今回の関税政策は、中共に対する対抗措置であると同時に、台湾の安全保障を目的としたものである。この二つの要素は不可分であり、共に中共への圧力として機能する。アメリカは、この措置によって中共の軍事行動を2か月から6か月以内に抑止しようとしている。関税政策の真意は、中共に対する威嚇と台湾防衛である。
台湾による米国製造業復活への貢献
呉嘉隆氏によれば、トランプ氏は台湾に対し32%の関税を課す意向を示している。この背景には、台湾から得たい具体的な成果が存在するためである。関税引き上げ後に台湾との交渉でアメリカの要求を満たすことができれば、関税率を引き下げる計画も視野に入れているという。
現在、アメリカは中共との対立だけでなく、「逆グローバル化」および「再工業化」という課題にも同時に取り組んでいる。これはどういう意味を持つのか。かつてアメリカは国際分業体制のもと、製造業を海外に移転し、その製品を輸入する構造を採用していた。しかし現在、この構造は機能不全に陥っており、「逆グローバル化」の流れの中で、国外に移転した製造業や産業チェーンを国内に呼び戻す動きが進行している。
再工業化の視点に立てば、製造業のインフラが最も整備されている国は中国であり、それに次ぐのが台湾である。アメリカの再工業化を支援できる国として、製造業供給チェーンを比較的完全に構築できる存在は、イスラエル、英国、オーストラリアではなく、台湾である。トランプ氏もまた、半導体から伝統的な製造業分野に至るまで、アメリカの産業復活にとって台湾が唯一無二の協力者であることを十分に認識している。
呉嘉隆氏によれば、日本および韓国には強力な造船業が存在し、これらの国々もアメリカ国内への投資を要請される可能性がある。さらに、フランスもアメリカ国内における造船業の推進に関心を示している。2日の関税発表以前には、すでに鉄鋼や自動車分野に関する発表がなされていた。そのため、製造業回帰の文脈の中で、鉄鋼、自動車、半導体、医薬品といった特定分野に対し、個別対応が進められる展開も想定される。これらの動き全体を俯瞰すれば、一つの包括的な戦略計画として位置づけることが可能だ。
率直に言って、現在進行中の関税政策は前例のないものだ。第二次世界大戦以降、このような展開は一度も発生していない。
関税政策 経済問題ではなく戦略問題
大紀元の編集主筆である石山氏は、「今回の関税政策に関して、誰もが明確に理解している点がある。それは、この政策が単なる経済問題ではなく、戦略的な問題として位置づけられていることである。そして米中間における争いは、貿易量の多少といった表層的な問題ではなく、根本的には決裂と宣戦布告という性質を持つ」と述べている。
中共の強硬姿勢の裏側 習近平の権力危機を読む
郭君氏は『菁英論壇』において、「中共がこれほどまでに強硬な態度を取り、アメリカに対して反撃を行うのには二つの理由がある。第一に、習近平の権威が深刻に揺らいでおり、彼の権力が現在危機に直面していることを示している」と指摘している。
郭君氏によれば、かつての米中貿易戦争の際、習近平の側近である経済官僚・劉鶴がアメリカとの交渉を担い、第1段階の貿易協定を締結した。この事実は広く知られている。にもかかわらず、帰国後の劉鶴は中共内部から激しい非難を浴び、「降伏派」との烙印を押された。報道によれば、アメリカ側の要求を受け入れたことで、彼は実質的に政界の表舞台から退いた。さらに最近では、息子と共にアント・グループの上場案件に関与したため、調査対象となったとの情報も存在する。
劉鶴がアメリカで交渉を行った際、その判断は彼個人のものではなく、習近平からの許可を受けての行動であったと考えられる。交渉における妥協もまた、習近平自身の承認に基づいていたと推測される。にもかかわらず、帰国後に劉鶴が批判を浴びたことは、中共内部で強硬派が主導権を握っていることを物語っている。習近平自身もまた、これら強硬派に対抗することができず、沈黙を保つほかなかった可能性が高い。
ここ数か月、習近平の権力に対する内部からの挑戦が相次いで報じられている。特に軍内部において側近の粛清が行われ、党内官僚の異常な人事異動も発生し、権力基盤の不安定さが明らかになっている。このような状況下において、彼には妥協の余地が存在しない。
郭君氏は次のように述べている。「実際、アメリカと中国の国力差は依然として大きく、特に関税問題においては市場規模の大きさが有利に働く。中国経済はここ数年で著しく悪化し、経済面においてアメリカに対抗する力を欠いている。ただし、中共体制下における妥協には一定の条件が必要であり、最高権力者の地位が安定していなければならない。また、内部からの非難や異論を封じる体制も整っている必要がある。権力の不安定な時期においては、独裁体制の指導者は対外的に強硬な姿勢をとりやすく、強硬な態度が目立つほど、その地位の不安定さが露呈する」
さらに郭君氏は第二の理由として次の点を挙げる。「これは体制自体の問題でもある。1989年の『天安門事件』以降、中共のイデオロギーと価値観は実質的に崩壊し、その後、国家主義と民族主義が新たな核心価値へと変化した。国家主義や民族主義には外部の敵の存在が不可欠であり、独裁体制は対外的に強硬な姿勢をとらざるを得ない。そのため、内部の不安定さが増すほど、より強硬な対応が現れる」
たとえば、毛沢東時代の1962年のインドとの戦争、1969年のソ連との珍宝島(ダマンスキー島)戦争、また鄧小平時代の1979年のベトナムとの戦争などは、いずれも中共内部で最高指導者の権力が非常に不安定だった時期に発生している。現在の状況もこれらと類似しており、北京における権力闘争は激しさを増し、習近平の権力基盤も揺らいでいる。結果として、対外的にさらに強硬な姿勢を取るに至っている。安定した権力基盤の下では、対外的にも妥協の姿勢を見せやすい。
郭君氏はまた、「今回のトランプ大統領による関税戦争は中共を主な標的としているが、現在の状況は2018年や2019年とは大きく異なる。当時は中国経済が成長を続け、中共内部にも楽観的な見方が広がっていた。しかし現在では、経済問題が山積し、多重の経済危機によって深刻な低迷に陥っている。実用政治の観点から見れば、中共は最も妥協すべき立場にある。それにもかかわらず、トランプ大統領は強硬姿勢を崩さず、中共には退路も妥協の余地もほとんど存在しない」と語る。
さらに郭君氏は、「中共側もアメリカや国際情勢に対して誤った判断を下している可能性がある。トランプ政権下でも交渉が可能だと見なしていた可能性があり、アメリカとヨーロッパの関係崩壊や国内政治の混乱を予測して、トランプ政権の強硬姿勢が長続きしないと考えていたふしがある。そのため、中共側は変化を待ちながら時間を稼ぐ目的で強硬な姿勢を選択した。しかし、2か月以内に中共がこの状況に耐えられなくなる可能性もある。もっともあり得るシナリオとして、中共がアメリカ国債に関する動きを見せ、大量のアメリカ国債を購入することでトランプ政権を財政難から救済し、その手段を通じて妥協交渉を試みる可能性がある」と指摘する。
最後に郭君氏は次のように結論づけた。「しかし、中共側の行動が楽観的な結果をもたらすとは限らない。仮にトランプ大統領が中国製品への関税を100%以上に引き上げた場合、関税緩和は条件付き交渉へと変質する。その結果、中共側は時間を稼げば稼ぐほど不利な状況に陥る可能性が高まる。また、米中間で直接対立が発生すれば、経済関係は完全に断絶し、中共経済は内需循環型へと逆戻りし、1990年代以前の状態に回帰する恐れがある」
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。