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【プレミアムレポート】関税応酬で米中関係は新たな段階に

2025/04/12
更新: 2025/04/11

ニュース分析

アメリカと中国共産党政権との間で繰り広げられてきた関税の応酬は、新たな対立と経済的デカップリングの時代に突入した。複数の専門家は、この流れが逆転する可能性は低いと指摘した。

トランプ氏は4月2日、中国に対し34%の「対等関税」を課すと発表し、同時に多数の国々にも追加関税を導入した。これは中共政府による長年の不公正な貿易慣行に対抗するための措置とされた。

中共側は、これに対抗し、同様の34%の関税を課す報復措置を実施。すると、トランプ氏は関税をさらに50%引き上げた。中共政権は、これにも応じ、「最後まで戦う」と繰り返し表明してきた。

そして4月9日、トランプ氏は、中国に対する関税を145%に引き上げる一方、他国への追加関税は一時停止した。

米中対立の本質は「世界経済秩序をめぐる争い」

専門家によると、今回の米中関税対立は、単なる貿易摩擦ではなく、世界経済秩序をめぐる争いであると言う。

アナリストらは、アメリカと中国の間では、もはや有意義な交渉の余地はほとんどなく、今は他の経済大国が両国のどちらの側につくかを見極める時期だと指摘する。

アメリカの対中関税の推移(出所:WTO、ホワイトハウス発表)

シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のジェームズ・ルイス上級副所長は、「両国は衝突に向かっている」と、語った。

ルイス氏は大紀元に対し、「中国は決して諦めるつもりはなく、少なくとも昨年11月の時点で、すでにこの対立への対応策を練り始めていた」と語った。

「中共は、経済的なデカップリングを予想し、その準備を進めていた」と述べ、党関係者とのやり取りを通じて得た情報だと説明した。「トランプ氏がその動きを加速させたが、中共側は少なくとも昨年から、デカップリングにどう対応するかを計画していた」とする。

アメリカ在住で、中国とのビジネスに長年携わってきたマイク・サン氏(仮名)は、「今回の対立は、トランプ氏の第1期政権のころから中国側が予期していた決戦であり、ついにその時が来た」と述べた。

トランプ政権下で中国は、アメリカ製品の購入を提案し、米中貿易赤字の縮小というトランプ氏の要望に一定の対応を見せた。これにより2020年1月に第1段階の貿易協定が締結されたが、中共はそれを実行しなかった。

トランプ大統領は、2019年10月11日、大統領執務室で中国との「第一段階」の貿易協定を発表した後、中共の劉鶴副首相と握手した(Win McNamee/Getty Images)

サン氏は「トランプ氏は、すべての国と対等な貿易関係を築くことを掲げ、世界経済秩序の再構築を進めようとしている」と指摘した。

「中共も、今回のトランプ氏の姿勢が、前回とは異なることを認識し、アメリカに譲歩すれば自らにとって到底受け入れがたい未来が待っていると判断し、戦う道を選んだ」と述べた。

さらに、「4月9日は米中関係における重大な転機となった日だ」とも指摘する。この日、中国共産党政権は、アメリカにとって単なる戦略的競争相手という立場から一線を越え、冷戦時代のソ連のような“敵対国”へと踏み出したとみられる。

中国問題の専門家アレクサンダー・リャオ氏は、「中共には、現状を打破するための政策的余地がほとんど残されていない」と指摘。そのため、中共が情勢を打開する手段として、台湾侵攻に踏み切る可能性は高いと警鐘を鳴らした。同氏が最近中共軍隊の内部から入手した情報は、その見解を裏付けるものだという。

リャオ氏は、中国本土の軍事組織で育ち、長年にわたり香港に駐在。その後、ジャーナリストとして活躍し、香港支局長も務めた経験を持つ。

同盟国はどのように対応するのか?

トランプ氏が4月2日に対中相互関税を発表して以来、アメリカ株式市場は2020年夏以来の3営業日連続の下落が続き、2008年以来となる1日あたりの最大上昇を記録するなど、ジェットコースターのような乱高下を見せた。

この一連の動きにより、投資家や一部の同盟国では不安感が広がり、トランプ氏は、4月9日、世界各国への関税引き上げを一時停止すると発表。その理由について、「皆が少し不安になっているようだ」と述べ、柔軟な対応が必要だと説明した。

戦略国際問題研究所(CSIS)のジェームズ・ルイス上級副所長によれば、欧州の政治家の間では、アメリカとの経済的なデカップリングを検討する声が強まっているという。EUは、トランプ氏の予測のつかない政策運営に警戒感を抱いた。

EUは4月10日、アメリカの鉄鋼・アルミニウム製品への関税に対する報復措置を90日間停止すると発表。欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長はSNSで「交渉にチャンスを与えたい」としつつ、「交渉が不調に終われば、あらゆる選択肢を検討する」と述べた。

(前列左から)バイルー仏首相、マクロン仏大統領、コーラー仏大統領府事務総長は、2025年4月3日、米国の関税の影響を受ける業界の代表者との会合に出席。マクロン氏はトランプ氏による対EU関税の大幅引き上げの発表が明確になるまで、米国で事業を展開するフランス企業に対し、すべての投資プロジェクトを一時停止するよう求めた(Mohammed Badra/POOL/AFP via Getty Images)

また、同日にはEUと中共が、中国製EVへの関税の代替として、最低価格制度の導入に向けた協議を行うことで合意した。

中国問題の専門家アレクサンダー・リャオ氏は、トランプ氏の強硬姿勢が欧州をある程度中国寄りに動かす可能性はあると指摘する。ただし、完全に中国側につくことはないとみていると言う。

「中国を支持するには、大きな道義的な抵抗感がある」とし、中共による深刻な人権侵害がその背景にあると述べた。

元国家安全保障担当高官で、アメリカン・グローバル・ストラテジーズ最高経営責任者(CEO)のアレクサンダー・グレイ氏は、トランプ氏の政策が「アメリカを戦略的に有利な立場に押し上げた」と評価している。

同氏によると、対等関税の導入により70か国以上が二国間交渉のテーブルにつき、世界の貿易交渉の構図が変わりつつあるという。また、各国に課されている10%の関税は、従来の平均関税の約4倍にあたり、トランプ氏はそれを「新たな標準」として定着させつつあると指摘した。

ルイス氏も、中国が産業政策を通じて、世界市場での支配を目指していると述べ、世界市場で中国の言いなりになることは、日本、韓国、欧州、そしてアメリカは損をすることになると述べた。「その条件で、中国と経済的に結びついたままでいれば、確実に不利になる」

一方で、ルイス氏は、トランプ氏の行動が、逆に世界経済の重心をアメリカから中国に移してしまう可能性があるとして、特に欧州からの動向に懸念を示した。

中国の本質が露呈 アメリカと同盟国は結束へ

グレイ氏は「アメリカの行動よりも、中国の行動こそが、同盟国の意思決定に最も影響を与える要因である」と強調した。グレイ氏は「トランプ氏は中国を、これまで多くの人がすでに気づいていた現実を自ら示さざるを得ない立場に追い込んだ」と述べた。

「中国の経済は、共産党政権を維持するために、経済的な対立を仕掛ける構造で作られてきた」と指摘し、さらに、「中共が自らの行動を改めようとしない姿勢は、体制の本質を示し、これにより、アメリカとその同盟国は、習近平政権の悪質な行動に対抗する連携を、強めつつある」と述べた。

2025年4月7日、北京で中国株式市場の動向を示すスクリーンの前を人々が歩いている。中国が米国に高い税率の関税を課したことを受け、4月7日、アジア市場の株価は暴落した(Wang Zhao/AFP via Getty Images)

習近平はトランプ氏に「持久戦」で勝てるのか? 専門家が見解

米中貿易対立が続くなか、専門家たちは、両陣営のリスクと戦略を分析し、対立の行方を予測する。

CSISのジェームズ・ルイス上級副所長は、「中共には『粘り強さ』という優位性がある」と指摘した。「彼らは、アメリカよりも長く痛みに耐えることができる。なぜなら、中間選挙のような政治的プレッシャーが存在しないからだ。アメリカでは、共和党がすでに中間選挙での苦戦を意識している」と語る。

中共の政権運営は、アメリカの政権とは異なる時間軸で進む。ルイス氏によれば、トランプ陣営は「3~6か月以内に成果が出なければ、実現は難しい」と考えているという。「この場合、習近平はトランプ氏に持久戦で勝てる可能性がある」と予測した。

習近平にも内圧 「党内エリートが脅威に」

中国国内での大規模な抗議活動は表面化しないが、習近平が圧力を感じていないわけではない。中国問題専門家アレクサンダー・リャオ氏は、「習が国民の声を気にしているとは思わないが、共産党内のエリート層が、現実的な脅威になる可能性がある」と語る。

党内の幹部たちが政策に反発すれば、新たな指導者を支持する動きにつながることもある。こうした不満が結集すれば、政権交代が起こる可能性もあるという。

習近平の産業政策は、製造業を人為的に拡大させた一方で、生産過剰と輸出依存を招いた。そのため、トランプ氏の関税は、広東省、浙江省、江蘇省といった輸出依存度の高い沿岸部の経済に深刻な影響を及ぼす可能性があるという。

また、中央・地方政府の債務の急増により、格付け会社フィッチは4月10日、中国の複数の国有企業の格付けを引き下げた。これは、同社が前週、中国の国家信用格付けを「A+」から「A」に引き下げたことに続く動きである。

経済が悪化すれば、共産党エリート層の財産も影響を受ける。その結果として、過去のような政変が起こる可能性も否定できない。

たとえば、1978年には毛沢東の後継者・華国鋒が、経済危機を理由に鄧小平に権力を奪われた前例がある。リャオ氏は「経済崩壊の危機」という理由が、習の権力を奪う正当性として使われる可能性があると述べた。

ただし、中国共産党政権の不透明さゆえに、外部からは権力闘争の兆候は見えにくく、変化が表面化するのは、新たな体制が確立された後になると指摘した。

米経済の底堅さがトランプを支える鍵に

リャオ氏は、トランプ氏がこの対立を乗り切るためには、「国内の雇用やインフレを安定させること」が不可欠だと述べた。アメリカ経済の底堅さが、トランプ氏の交渉力を支える鍵になるという。

実際、3月のアメリカのインフレ率は前年比2.4%と、前月の2.8%から低下した。また、米労働省によると、3月の新規雇用者数は22万8千人で、2月の約2倍、予想(13万5千人)を大きく上回った。

さらに、4月9日に実施された米10年国債の390億ドルの入札でも投資家の需要は堅調であり、利回りは、想定よりやや低かったものの、週間ベースでは2013年6月以来最大の上昇となった。

アメリカ在住の実業家マイク・サン氏は、「表面上は分かりにくいが、中国がアメリカ債を売却し、価格を下げて金利を上げようとしている可能性がある」と指摘している。現在、中国はアメリカ債約7600億ドルを保有しており、これはアメリカ債全体の3%未満に過ぎない。

リャオ氏は、「堅調な国債市場や株式市場の回復は、アメリカ経済の基盤が依然として強いことを示している」と、述べた。

2025年1月2日、ワシントンのバスターミナルに表示された国家債務時計(Madalina Vasiliu/The Epoch Times)

台湾侵攻を視野に入れる中国共産党の思惑

アレクサンダー・リャオ氏は、習近平が現状を打開するために、台湾への侵攻を決断する可能性があるとの見方を示している。

「中国共産党は、市場の構造そのものを変えたいと考えている」とリャオ氏は語った。「現在は、平時で生産能力が過剰となっており、世界市場は『買い手市場』になっている。最大の買い手であるアメリカが最も大きな影響力を持っている状況だ」「しかし、戦争が始まれば経済は、『売り手市場』に転じる。武器や装備などの需要が急増し、中国の製造業にとっては、最大限の活用の場となる」とした。

世界銀行の最新データによると、2023年の中国の製造業規模は4兆6600億ドルに達し、世界全体の約30%を占めた。一方、アメリカの製造業は2021年時点で2兆5千億ドルだったが、2022年と2023年のデータは公表されていない。

軍内部文書が示す「三つの方針」

リャオ氏が入手した中共軍の内部通達によれば、軍内では次の三つの方針が共有されているという。

  1. 台湾との戦争は避けられない。戦闘が続く中で2年以上にわたって和平交渉が行われた朝鮮戦争のような状況になる可能性がある。
  2. 米中戦争も不可避である。
  3. 中共軍は、戦闘時に中国兵が敵の部隊を識別できるよう、米軍各部隊の記章を配布し、学習させている。

リャオ氏は「人民解放軍の内部は非常に緊迫した空気に包まれている」と語った。また、戦争は習近平にとって複数の問題を一気に解決する手段になり得るとも指摘した。

「第一に、経済問題の優先度が下がり、対外的な圧力が薄れる。第二に、中国共産党内の反対派を抑え込み、国民に対しては共産党支配を正当化するための『外的な脅威』を示す」となる。

2024年10月18日、台湾の桃園で行われた中国軍の軍事演習後、台湾の頼清徳総統(中央)と海軍基地の関係者や兵士ら(I -Hwa Cheng/AFP via Getty Images)

 

Terri Wu