トランプ大統領の関税政策が、世界貿易に激震をもたらした。各国政府の対応は多様であり、交渉や報復措置が進行中で、本稿では、この政策が世界経済に与える影響と、新たな国際秩序の可能性を探った。
トランプ氏の関税政策が実行に移され、世界の資本市場は、即座に反応した。現在、中国を除く各国政府は、それぞれ異なる立場を取り、アメリカに対して関税を引き下げる国、トランプ氏に直接連絡を取り議論を求める国、慎重に状況を見極めている国など、反応は様々である。多くの国々にとって、重要な課題は、この不安定な状況にいかに経済的に耐え、どのような政策を選択するか、そして短期的な混乱を経て、世界経済が新たな安定を確立できるかどうかに掛かっている。
関税の嵐が到来 各国の立場を試す
テレビプロデューサーの李軍氏は、新唐人の『菁英論壇』で次のように語った。「トランプ大統領の関税政策は、世界経済に甚大な影響を及ぼし、アメリカの年間消費総額は約20兆ドル、昨年の輸入額は3.3兆ドルに達する。アメリカの消費は、世界全体の約3分の1を占めており、この巨大市場でルールが変われば、世界経済にとっては、重大な挑戦だ」
李軍氏によると、関税政策が発表された際、EU、フランス、カナダなどの国々は、強く反発し、報復措置の必要性を訴えた。しかし、時間の経過とともに多くの国が冷静さを取り戻し、態度を軟化させ始めた。交渉を求めたり、相互的なゼロ関税協定の締結に前向きな姿勢を示した国も登場した。
現在、ホワイトハウスおよび各種統計によれば、70以上の国がアメリカと連絡を取り、交渉中であり、なかでもイスラエルは最も早く行動し、ネタニヤフ首相が率先してトランプ氏との会談に臨んだ。イスラエルは、アメリカとの貿易赤字の早期解消と協定締結を目指し、それを国際交渉のモデルケースとする意向を示した。
EU委員会のフォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長は、「EUは4月7日にゼロ対ゼロの関税協定案を発表し、全ての国が関税負担から解放されることを目指している」と述べた。
イギリス政府も「経済協定の締結を通じて、関税の撤廃または削減を最優先する」と明言している。カナダも当初は強硬姿勢を取っていたが、現在は柔軟な態度へと変化し、「双方で関税を撤廃することが最も望ましい」として交渉に意欲を示している。
台湾の頼清徳総統は、「台湾はアメリカとのゼロ関税協定を検討しており、アメリカからの商品購入拡大計画を策定している」と語った。この政策により、貿易黒字の縮小と防衛関連商品の購入拡大を図る。また、通信分野などにおけるアメリカへの投資拡大を視野に入れ、アメリカ側にも、台湾への投資拡大を促している。このような積極的な外交姿勢は、中共の対応とは対照的である。
李軍氏によれば、日本、インドネシア、ベトナム、さらにはジンバブエもアメリカとの交渉準備を進め、特に日本とベトナムはすでに交渉段階に入った。トランプチームは、「これら東南アジア諸国との協定において、中国からの原材料には30~50%の関税を課す」との方針を示し、特にベトナムとの交渉では、中国製品の排除が障害となる可能性が高い。アメリカは「ベトナムが中国製品を迂回して輸出している」と見ており、この問題の解決と中国製品回避策の強化が急務と言う。
東南アジアへの関税引き上げ 中共への対抗策
ベテランジャーナリストの郭君氏は、『菁英論壇』にて次のように述べた。「アメリカによる東南アジア諸国への関税引き上げ政策は、中国共産党(中共)への対抗を目的とする」たとえば、ベトナムとのゼロ関税提案には、中国の原材料や半製品に対する課税要求が含まれ、中国製品の第三国経由輸出ルートを遮断することを狙う。この政策の本質は、東南アジア諸国への圧力ではなく、中共に対する経済的圧迫を強化することにあった。
トランプが世界の新しいルールを再構築
時事評論家の横河氏は『菁英論壇』において、「ヨーロッパ各国は関税に対する姿勢が一様ではない」と指摘した。ヨーロッパの中には、報復関税を視野に入れず、むしろ関税の引き下げを志向する国々も存在する。その背景には、第二次世界大戦後の復興期にアメリカから支援を受けたという歴史的事実による。
アメリカの援助終了後、グローバリゼーションが加速し、ヨーロッパでは統合の流れが進展し、複数の条約が締結され、これら条約が域内の関税撤廃を目的とし、ヨーロッパ諸国はそれに向けた準備を整えてきた。
しかし、この潮流は、アメリカには当てはまらなかった。なぜなら、アメリカ製品は、既に高い競争力を有していたため、ゼロ関税の導入が、当然の結果と見なすべきであったからである。また、すべての国が高関税を維持するか、あるいはゼロ関税に統一するかという選択肢も存在するのだ。
ヨーロッパ諸国は、比較的理性的な対応を示した。アメリカは「相互関税」の概念を提示しており、その算出方法は、平均関税率や特定分野に基づくため、非常に複雑である。アメリカが輸入する全商品の平均関税率は2〜3%程度である一方、アメリカ製品がヨーロッパに輸出される際には約3.5%の関税が課される。
この数値は高いとは言えないが、特定分野では例外的に高い関税が設定されている。たとえば、自動車の場合、アメリカがヨーロッパ車に課す関税は3〜3.5%であるのに対し、ヨーロッパがアメリカ車に課す関税は10%以上に達する。また、農産物に対しては20%もの関税が課されることもあった。
このような状況を踏まえると、ヨーロッパ側には論理的な正当性は見出しがたい。なぜなら、EUはすでにアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の経済圏として確固たる地位を築いているからである。さらに、ヨーロッパの生活水準は高く、多くの国民が快適な生活を送っている。現地を訪れると、午前11時前には街中に人影が少ないが、アメリカでは朝4時から人々が活動を開始しており、比較して、勤労への姿勢が際立つのだ。
このような状況を踏まえ、ヨーロッパは冷静に対応すべきであり、EUは内部の意見を一致させる必要がある。報復的な関税政策を強行しようとするのは、フランス以外にあまり見当たらない。多くの国は、アメリカとの交渉による解決を志向しているのが現実である。
ただし、現在の争点はゼロ関税にとどまらない。トランプ氏は「ゼロ関税では不十分であり、本質的な問題は貿易赤字にある」と明言している。アメリカが解決すべき課題は貿易赤字であり、ゼロ関税を導入してもこの問題は解消しない。イスラエルは、貿易赤字解決の模範例を示し、他国もその必要性を認識しつつある。したがって、ゼロ関税は出発点に過ぎず、トランプ氏は新たな国際ルールの構築を目指している。
横河氏は、「グローバリゼーション以降、多くの国際機関や過去の貿易協定、公的な枠組みが統合され、関税引き下げが常態化した」と分析する。しかし、実際に関税を真に引き下げたのは、アメリカのみであり、他国はそうではなかった。
その結果、アメリカは損失を一手に引き受け、国際協定がアメリカの行動を制限する結果となった。アメリカは最も規則を守る国と化し、ゆえに、トランプ氏が新たな国際ルールを再構築しようとしているのは、当然の流れであった。この動きは極めて重要であり、多くの人々はその意義を理解しつつも、この問題は単なる交渉で解決できるものではなく、各国が新たな世界秩序にどう適応するかを真剣に考えなければならない。
EUは統一した対応策を講じることができるのか?
横河氏は『菁英論壇』において次のように語った。
「私はEUの27か国が統一された戦略を打ち出し、アメリカに対応する可能性を期待している。EU内部ではすでに免税制度が実現しており、27か国は一体化している。この現状を踏まえれば、最終的に何らかの解決策に到達するだろう」
「そうでなければ、トランプ氏による国際秩序の再構築がEUの再編を引き起こす。EUはもともと地域的な一体化組織であるため、この再編は避けがたい」
横河氏は続けて、「グローバリゼーションは本質的にヨーロッパ全体の統一を意味する。EUがアメリカに対抗するための一貫した戦略を持たなければ、中共にも対応せざるを得なくなる。アメリカが関税を課した場合、中国製の廉価商品が欧州市場に流入し、大量の商品波が発生する可能性が高い。このような状況において、ヨーロッパには団結が不可欠である。
もし団結できなければ、グローバリゼーションそのものが崩壊し、欧州統合も瓦解する。だからこそ、私は、ヨーロッパが団結に向けて努力を重ねると確信している。一つのEUは、個別国家に比べてはるかに大きな力を持っている」と、述べた。
李軍氏は、マスク氏が最近ヨーロッパに対して警告を発したことに触れた。
「米欧間の関税問題が解決しなければ、ヨーロッパの輸出経済は『大虐殺』に等しい深刻な打撃を受けるだろう。特に自動車、機械製造、贅沢品産業においてその影響は顕著になる」
と、指摘した。マスク氏は、米欧間で貿易紛争が発生した場合、その影響は極めて重大になると強調した。
郭君氏は、トランプ氏による関税戦争がヨーロッパにとって大きな挑戦であり、試練となると述べた。「対応を誤れば、EUは崩壊しかねない」と語った。EUはもともと統一関税同盟として始まり、経済共同体から発展した。しかし加盟国の増加に伴い、問題は経済領域から政治領域へと拡大し、現在も、EUは深刻な構造的問題を抱えていた。
EUの統一法や政策は、一票否決制という制度上の制約に直面した。一国でも反対すれば法案が成立しない仕組みである。加盟国27か国はそれぞれ政治文化が異なり、経済格差も大きく、発展の度合いも不均衡である。それにもかかわらず、EUは統一中央銀行を設立し、統一通貨を導入したこの現実は、さらに政策調整を困難にした。
郭君氏は具体例を挙げた。「ある国では経済が悪化しており、緩和的な金融政策や利下げが必要である。一方で、他の国では経済過熱を抑えるため利上げが求められている。このような状況において、中央銀行はどのように判断すべきか。また、ある国は、アメリカとの関係を強化し、多くの取引を望んでいるが、別の国はそのような関係を望んでいない。このような相違がある中で、どのように統一を実現できるのか」と問いかけた。
さらに、ドイツとルーマニアの経済状況の違いを例に挙げ、関税に対する感度が異なることを説明した。各国の立場の違いが、統一政策の形成を難しくし、この関税問題は、EU加盟国にとって大きな試練となっている。特に政治的な分裂の深刻化を招く恐れがあると述べた。
大震動は少なくとも1年続き 大資本は方向性を失うか
大紀元の編集者兼主筆である石山氏は、次のように語った。「これまでの経済データは、危機時に大きな波動が発生する傾向を示す、金価格、原油価格、ドルの価値などがその例である。通常、金と原油の価格が上昇すればドルの価値は下落し、逆にドルの価値が上昇すれば金と原油の価格は下落する。しかし、今回は極めて異常な現象が生じており、金、原油、ドルの価値が同時に下落している」
郭君氏もこの状況に言及し、「国際経済構造が変化している現象と捉えるべきである」と分析したうえで、「過去数十年間、世界経済の運営を支えてきた基本要素が変わりつつある」と述べ、「かつて世界経済は、石油ドル体制によって結びついていた。ドルは国際取引の決済通貨であり、各国にとって富の価値を保存する手段でもあった。このため、ドルの価値が下落すれば、金や原油といった他の資産の価格も連動して下がる傾向があった。しかし今後、同様の構造が維持される保証はない」と。
石山氏は、「現在の世界経済は恐慌状態にあり、大資本は方向を見失っている。この状況は少なくとも一定期間継続し、その後、新たな局面に適応した段階でようやく安定に向かう。これは世界経済全体に対する大きな試練である」と語った。
2025年は震動期
横河氏も、「2025年は震動期となり、2026年以降には徐々に平穏を取り戻し、新たなルールが形成される」と見通した。「現在、多くの国々は、大きな痛みを伴う変化の只中にあり、環境への適応が求められている。供給チェーン全体の移転は、1~2年で完了するような規模ではなく、大がかりな構造転換が必要である。ただし、すでに短期的な効果も現れており、一部の投資はアメリカに流入している」
具体例としてテスラを挙げ、「最近の調査によれば、テスラは、最もアメリカ化された車両として第1位に選ばれ、その部品の大半を米国内で生産している。この成果は、多大な努力の賜物である」と説明した。
一方で、「アップルがiPhoneの生産ラインを、中国からインドに移転しようとする試みにおいては、大きな差異が存在する。中国では供給チェーンが整備されているが、インドではその体制が整っていない」と分析した。
また、日本企業についても次のように述べた。「過去、日本企業はアメリカとの貿易赤字問題に対応するため、トランプ政権と同様にアメリカ内での工場建設を受け入れ、多くの工場をアメリカ南部に建設した。その結果、日本の車両生産ラインおよび供給チェーン全体をアメリカ内へ移転させるという、かつては不可能と見なされていたことを実現した」
横河氏は、「テスラはアメリカ企業であるため特別な立場にあるが、日本企業も過去に成果を上げていて、現在もその成果を維持している。他の企業にも明るい展望がある。自動化管理やAI制御といった技術が進化を続けており、今後さらなる発展が期待できる」と締めくくった。
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