米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)のジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は今週、北京を訪問した。アメリカ政府が同社の主力AIチップに対して新たな輸出規制を発表した直後のタイミングであり、中国市場との取引継続を模索する狙いがあるとみられる。
中国国営メディアによると、フアン氏は中国国際貿易促進委員会の招待で訪中し、中国との協力関係が今後も続くことを望んでいるという。
今回の訪問は、トランプ政権が同社AIチップH20に対して新たな輸出管理措置を導入すると発表した直後に行われた。このチップは、エヌビディアが中国に特別許可なしで提供していた唯一の製品である。
H20は、同社の高性能チップ「H100」の性能を一部制限したバージョンで、2022年に当時のバイデン政権による輸出規制に対応するために開発された。エヌビディアは、新規制によって在庫調整や契約関連費用が発生し、約55億ドル(約7865億円)の損失を見込んでいる。
アメリカ政府は、国家安全保障やAI分野での優位性を確保するため、中国への最先端AIチップの輸出を制限しており、エヌビディアの製品もその対象となっている。
H20は、演算性能は限定されているものの、AIが未知のデータに対して推論を行う能力など、一部の高度な機能を備えている。そのため、大量に集められればスーパーコンピュータの構築に利用される可能性があるとして注目されている。
今週、米議会の対中政策を担当する特別委員会は、中国のAI企業DeepSeek(ディープシーク)が3万個のH20チップを用いて、自社のAIチャットボットを開発したとする報告書を公表した。DeepSeek社はさらに数千個を追加で発注していたが、新たな規制により今後の購入は不可能になるとみられる。
また、同委員会のムレナー委員長とラジャ・クリシュナムルティ民主党筆頭委員はフアン氏宛ての書簡で、DeepSeekがH20や他の規制対象チップにアクセスできた背景には、シンガポールなど近隣諸国を経由した密輸の可能性があると指摘した。
報告書によると、エヌビディアにおける中国市場の売上比率は2021年以降、25%超から15%未満にまで低下している。ただし、東南アジアで販売された製品が中国市場へ転売された可能性や、二次流通で流れた可能性も指摘されている。
これを受けて、ムレナー氏らはエヌビディアに対し、2020年以降にAI関連チップを500個以上購入した顧客の情報と、DeepSeekとのやり取りを記録した資料の提出を求めた。
中国市場での先行きが不透明となる中、エヌビディアは製造体制の一部をアメリカ国内へ移行する計画を打ち出している。
フアン氏は4月14日、AIスーパーコンピュータをアメリカで初めて製造すると発表。アリゾナ州とテキサス州に計100万平方フィート(約9.3万平方メートル)を超える製造スペースを確保し、開発・試験を行うという。
このアメリカ国内への投資総額は、今後4年間で5000億ドル(約71兆円)を超える見込みだ。台湾TSMCなどの国際パートナーとの連携も含まれるという。
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